参 学校




(なんだか変わった人だったな…)


心の中で呟きながら、紅光は教室の扉を開けた
基本的に紅光は早く起きる
故に学校に来るのも早い
教室にいる人数もまだ2、3人しかいない



「あれ…?琉那?」

「お、おはよ〜ピカ」


いつもは遅刻か遅刻ギリギリ(若しくは学校なんて来ない)筈の少女が珍しく学校に来ている
この少女の名前は浦飯琉那
紅光の父―蔵馬の親友の娘だ
親同士が仲が良いので、その繋がりで琉那と紅光も昔から仲が良い



「今日は珍しく早いんだな」

「失礼ね…ちょっとね、嫌な予感がしたから」

「嫌な予感?」



琉那の言葉に紅光の眉間に皺が寄る
紅光の両親が人間ではなく、妖怪であるように琉那の父親もまた人間ではない
魔族という妖怪だった
その魔族の血を引き継いだ琉那の能力も非常に高い
妖気や霊気といったものには敏感だ
紅光もそれなりに気配を感じることは出来るが、今は何の邪気もない


「気のせいではないのか?」

「気のせいだと良いんだけどね」


至極尤もな意見を言って琉那は笑った



「あ、そうそう」

「ん?」

「今日ね、転校生がくるんだって」












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「ふぅん、ここが学校?」


夜に近い夕焼けのような髪色を持つ少女は訝しげに碧に尋ねた


「そうだけど…いや、それより――」

「ん?」

「…いや、なんでもない」




(かなり飛ばして走ったつもりなのに――こいつ、息ひとつ乱れてない…)




妖狐の血が濃い碧の身体能力は人間の大人のそれよりも高い
この少女はそんな碧の足に付いて来るだけでなく、その身体に微塵も影響を与えていないように見えた


(こいつ、妖怪だったりして)

「…なに?」

「なんでもない」


少女からは妖気の類いは一切感じられない
『体力には自信がある』と言っていたことを思い出す
とりあえず今はそれで納得するしかなかった



「じゃあ、オレもう行くから」

「あっ!待ってよ!し…しょくいんしつ?ってどこ?」

「……は?」



思わず間の抜けた声が上がる
少女は困ったように碧を見ていた
学校内を女の子と歩くと、同級生から冷やかされるので碧的には余り承諾したくなかった

だが、困っている人を放っておくほど、碧はプライドが高い訳ではない
小さく溜め息をつくと少女を促した


「ついてきて」

「うん!ありがとう!あ、私ね、華菜!矢谷華菜っていうの!」

「そう。オレは南野碧」

「ふ〜ん、変わった名前。同じクラスになれるといいね!」


そう言って華菜は笑った
少し間があって碧は「え?」と彼女に聞き返すのだった














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HRの時間が近くなるにつれ、生徒達がわらわらと教室へと入って来る
その間にも紅光は気配を探っていたがそれらしいものは一向に見つからなかった

あと1分でチャイムが鳴る時間になる
バタバタと慌ただしい足音が聞こえて来た



「「セーーーーーーフ!!!!!」




勢い良く教室の扉を開ける赤い頭と紫の頭
琉那はその2人を見て盛大に溜め息をついた
赤い髪の少年が琉那に気づくと声を上げた


「あ!お前なんで今日はこんなに早いんだよ!!いつもは遅刻のくせに!」

「私がいつも遅刻してると思ったら大間違いだっつーの」

「今どっちが早かった!!?」

「計ってないわよ…それより、あんた達、何か変な気配とかしなかった?」


少年2人が顔を見合わせる
赤い髪の少年の名は十干丁。紫髪の少年は安倍月雨(みだれ)
2人とも妖怪等の類いではないが、神道に携わる家系の者で霊感等は優れている


「いや、別に」

「…ふ〜ん…ま、そんな気はしてたけど」

「失礼な奴だな!」

「解ってんなら聞かんといて!」
                                            

口ではぐちぐち言いながら2人は渋々席についた
(ちなみにこの4人は席が近くである)


「で、どうかしたの、浦飯のやつ。何か今日学校来るの早いし」


何と無しに後ろの席の紅光に小声で尋ねる


「琉那曰く、“嫌な予感”がするそうだ」

「はぁ?なんだそりゃ…オレも月雨もここまで来るのに何も感じなかったぞ」

「うん…それは、私も同じなのだが…」



その時、教室の扉が開き担任と共に1人の少年が中に入って来た


「あ…」


思わず小さく口に出す紅光


見覚えのあるカフェオレ色の髪に、朱い瞳
少年は彼らを真っ直ぐ見据えていた







「はじめまして。転校してきた、杯桂です。よろしくお願いします」





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