壱 少年





金色の髪が朝の光に照らされて、キラキラと光る




その少年は決して爽やかとは言えない夏の通学路を歩いていた



蝉の声以外は、何も聞こえて来ない

静かなこの通学路が少年は好きだった







少年の名前は“紅光”


優しい両親と、捻くれ者だけど兄想いな弟に囲まれ幸せな毎日を送って来た





今日は、学校で英語の小テストがある


この通学時の時間も無駄には出来まいと、真面目で勉強熱心な彼は鞄から単語帳を取り出そうとした







「あ、」






その際に鞄の口に単語帳が当たってしまい、紅光の手からスルリと落ちて行く



太陽光によって熱されたマンホールの上に落ちたそれは、バサッと渇いた音を立てた


慌てて拾おうとしたが、紅光より先に別の手が単語帳を拾い上げた




見ると、1人の少年が手にした単語帳をジッと見つめている


紅光同様、学生服を纏い、歳は紅光と同じか、一つ年上のように思えた

カフェオレのように薄い茶色の髪を少しだけピンで止めている



少年は手で小さな砂利を払うと、単語帳を紅光に渡した



「あ、ありがとうございます」


慌てて礼を述べる
少年はヒラヒラと手を振ると屈託の無い笑顔を浮かべた


「いいって、気にすんな!今度は落とさないようにしろよ?」


そう言うと少年は踵を返し、夏の蜃気楼の中その場を去って行った



「・・・・あ」





しばし呆然と少年を見送っていた紅光が何かに気付いたように声を上げた







「名前・・・・聞くの忘れてた」









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