エピローグ 辿り着く場所



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カーテンの隙間から朝の日差しが差し込む
未だに碧は夢の世界にいた

現実に引き戻すようにけたたましい目覚まし時計のベルが鳴る
バッチリと眼を覚ました碧は安眠を妨害された苛立ちを徐に時計へとぶつける
そんなに力を入れたつもりは無かったのだが、碧が思うよりも力が入ってしまったらしい

時計は小気味いい音を立てて壊れてしまった
再び微睡みに身を委ねたが、それもすぐに終わりを告げる


「も〜碧ったら、もう7時半だよ!?学校遅刻しても知らないよ!」


碧の母親――梅流がバッとカーテンを開き明るい日差しが部屋に舞い込む
その眩しさに更に毛布を被る


「あーあ、また目覚まし時計壊しちゃったの?まったくもう…!」


眠いものは仕方がない
自身の安眠を妨害した目覚まし時計が悪いのだと無茶苦茶な理屈を心の中で唱える

しかしその後、最終手段である“今日の朝食”作戦に出た梅流にあっさり敗北し眠い目を擦りながら起き上がるのだった

母と父に朝の挨拶をして朝食をとりにキッチンへ向かう
先に朝食をとっていた兄とも軽く挨拶を交わし、食事に手をつける寸前に手を止める


(―――あれ…?オレ、どこかで――)


―――似たような光景を、
家族ではない誰かと食事をした事を覚えている


しかし、それが誰だったのかが思い出せない
まるで記憶に靄がかかったように感じられる
そんな疑問を抱えながら朝食を終え、学校へと向かう


道中、公園の脇に植えられた百合の華―種類は何か解らなかった―を見つけ、不意に目頭が熱くなった




脳裏に浮かぶ勝気そうな笑顔
つり上がった大きな蒼い眼
夕闇色の長い髪

そして、何度も彼女が見せた“世界”



風が百合の花を揺らす
ポツリと碧の瞳から涙が零れ落ちた




「――“また月曜日に会おう”って…言っただろ」





涙を手の甲で拭い、通学路を走り抜ける
背後で誰かが手を振っているような――そんな気がした










ワガママで自由奔放で自己中心的でどうしようもない女がいた

そんな女に世話をやく、お人好しがいた


そして――そんな女に好かれたオレがいる


そいつにはもう会えないけど、きっとこの感情を忘れることはないだろう

あの戦いの音を覚えている
綺麗だった瞳を覚えている



これから彼女がどんな脚本を書くのかはわからない
でもオレにはもうそれを止める権利なんてない






頬を撫でる優しい風を受けながら碧は立ち止まり、呟いた







「なぁ、アンタは今―――幸せか?」



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