壱拾六 Imitation




「コイツは一発ぶん殴らないと気が済まない――!!」


碧の咆哮と共に銀色の妖気が放出される
それは九つに枝分かれし…――喩えるならば、まるで九尾の狐のよう


(……何…?)


碧の姿に驚いたのは他でもない華菜だった
それもその筈
何故ならこの世界は華菜が望み、そうであるように創った世界だからだ

こんな碧は、華菜は知らない
こんな展開は、華菜は認めない―――!!


「…はあぁ――――!!!!」


華菜は腕に水を纏い、碧へと向け突進する
次第に水の形状がぐにゃりと曲がり、変わっていく

彼女の手に握られていたのは豪華な装飾を施された碧き盾――


碧は一歩も動かず、華菜を向かい討つ
銀色の妖気を華菜と同じく手に纏い、盾を引き裂かん勢いで突き上げる

衝撃波同士がぶつかり合う
お互いの踵がザリザリと地面を抉りながら後退していく


「――――くッ…!」


僅かに碧の表情に曇りが見えた
好機とばかりに華菜の霊水が膨れ上がり、碧の妖気を弾く


「言ったでしょ…キミ如きじゃ絶対に私には…」


刹那、地面から茨が生え、華菜の腕を捕らえる
盾に絡みついた茨が水を吸収し始め、徐々に盾が薄くなっていく
華菜が信じられないと言った顔つきで碧を見やる


「これはアンタの望んだ世界なんかじゃない…」


彼女の視線に応える
銀色の妖気はやがて熱を帯び、焔へと変わっていく


「なに、言ってるのかな…?
アハハ、だって私はここにいてすごく幸せだもの…間違ってなんて…!!」


絡みつく茨を解こうと藻掻く華菜
――もう既に華菜も気付いていた
本来なら彼女に不都合な展開なんてすぐに改変出来るというのに、それが出来ない

だが、それに気付きたくなかった
気付いたら終わりだと――そう直感したのだ


尚も碧の言葉は続く




「そんな事は間違っているーー
仮初の幻想が創りだした世界なんてただの現実逃避だってアンタが1番わかっているだろうが!」



銀の焔が碧の全身を包み込む
それと同時に華菜の拘束が解かれる

碧は真っ直ぐ華菜へと向かって疾(はし)り、焔を纏った拳を振り上げる
咄嗟の出来事に盾を創る事も許されない

その拳を両腕でガードして止める

肉が焼ける匂いが鼻をついた



「二つの世界は決して交わることはない
けど…二つの世界に優劣をつけることなんて出来ない…!」


武器も水も、今の華菜には使えない
碧の攻めをその身ひとつで受け止めなければならない


「――だけど、夢はやっぱり夢だ
いつかは必ず目覚めなくてはならない
逃げてばかりでは一歩も前に進めない
現実が嫌ならそれを打ち砕くくらいに強くなれ!!」



その言葉に華菜がハッとしたように眼を見開く
歳相応な幼い顔立ちだった
何かに縋るように碧を見る



「アンタが作ったこの世界を夢物語というのなら最後まで付き合おう
偽物の世界を、仮初の現実を、俺達は精一杯生きている
アンタの書いた脚本を、必死に演じている
だからアンタも逃げるな、迷うな、立ち向かえ!」



華菜の顔が歪む
まるで泣き出す寸前のように




「立ち止まったままじゃ――つかめる物もつかめなくなるだろう!!」


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