八 確信



梅流が華燐と杢火と出会う少し前――――
碧は、ほとほと困っていた
目の前にはしゃくり上げ涙を流す女の子
その傍らには苦笑して自分を見る友人・寵と、怪訝そうな表情をする友人・蛍明


「いい加減泣き止めって…」

「ひぐ…っうぅ…っだって、だってぇ…」


碧は何度目か解らない溜め息をついた
事の顛末は――こうだ







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「ね?これなら君のタイムが遅くなる事はないよ」



そう言って無邪気に微笑んだ華菜
クラスメイトの数人が華菜の何らかの能力によって生み出した渦潮に巻き込まれている
その光景を見て――何故、華菜は笑っていられるのか
そう考えたら無性に腹が立ち、碧は華菜の肩を掴み、怒鳴りつけた


「馬鹿!!何やってんだよ!!」


華菜はきょとんとして碧を見ている
やがて釣り上がっていた強気な目元が下がっていき、瞳には涙を溜めて――
そこで碧はぎょっとするが時既に遅し


「う…うわぁぁぁぁぁぁん…っ!!」



華菜はしゃがみ込み、大声で泣き出してしまった
途端に渦潮も止み、児童達が解放される
不思議と、児童達に怪我はなかった
それが良かったことに越した事は無いが、碧は気が気ではなかった
何故なら、クラスメイト達の視線を一身に背負うことになってしまったからだ
自分のすぐ隣に泣きじゃくる少女――これほど完璧なシチュエーションがあり得ようか
おまけに自分の近くにいたクラスメイトは自分が華菜の肩を掴み何かを怒鳴っているのを目撃していたらしい
碧は気が遠くなるのを感じた――――











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――そして、現在に至る
あの後、教師やらクラスメイト達の尋問にあったのは言うまでもない…
非現実的な渦潮の件よりも、現実的な出来事のほうが彼らにとって大事なのは当然のことだと解ってはいたが理不尽だと声を大にして言いたかった



「…本当、今日は厄日だ」

「うーん、ちょっとタイミングが悪かった、のかな?」



うんざりとした様子で頭を抱える碧と未だ泣き止まない華菜を交互に見やり、寵は苦笑した



「…だが、これでようやくハッキリ解ったな」

「蛍明」

「コイツは普通の人間じゃない。…矢谷華菜」



蛍明がいつもより低めの声で問う
その声に華菜はビクリと肩を震わせた
恐る恐る蛍明を見上げる
厳格な態度を崩さない碧と蛍明をまぁまぁ、と寵が宥める



「お前は何者だ?何が目的で――ここにいる?」




華菜の大きな瞳に蛍明が映る
しばらく涙の浮かんだ瞳がゆらゆらと揺れていた
スッと華菜は瞳を閉じる


そして――――――――




「――――――――――ッ!?」






――――華菜の目の色が、変わった
その瞳に浮かぶのは憎悪と嫌悪の色


まるで血のように紅く染まった瞳は、碧、寵、蛍明…それぞれを見据えている





「華菜はね…“神様”、なの」




ゾクッと碧の背中に冷や汗が流れる
妖気とも霊気とも――聖気とも違う、別の得体の知れない“気”が全身に纏わりついている

それは例えるならば、蜘蛛の糸に似ていた
粘つくような、だが、とてもか細い…それでいて、高い強度を持つ蜘蛛の糸

逃げ出したいのに、逃げ出せない…さながら、蜘蛛に捕まる獲物のようだ





「華菜は…悪い魔女を倒す為に、ここに来たの」

「悪い、魔女…?」

「そいつは、華菜と“お兄ちゃん”にあらゆる苦痛を与えたの、だから今度は華菜がそいつに苦痛を与えてやるの。でもその為には力が必要なの。
だからここに来たの。ここに来て、力を蓄える為に、ここに来たの」





抑揚の無い声で華菜は淡々とそう言った


彼女の言う、“魔女”と“兄”の存在

そして自らをこう指し示す――“神”と





――――そして、碧は、いや、碧達は…確信へと迫って行く






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