七 模造





華燐と杢火の話を要約すると、こうだ
この2人はこことは違う別次元の世界から来たのだという
ここと非常に良く似ているが、どこかが違う世界――――
所謂“パラレルワールド”だ

2人は何らかの拍子にこちらの世界に迷い込んでしまったのだという


そして、2人が元いた世界では2人は飛影と琉紅の子ども
だが、こちらの世界では飛影の子どもは蛍明と蓮の2人だけだし、琉紅は飛影とは結婚していない
故に、この世界では華燐と杢火は生まれることはないのだ

この2人が飛影達の子どもなら梅流を知っているのは納得が出来る

だが、納得がいかない点がひとつだけあった


――――どうやって『この世界に自分たちが存在しない』ということを知ったのか


誰かが教えるか、自分たちで両親とその子どもを見なければ普通は気づかない筈
後者の場合はほとんど不可能に近い
何故なら、飛影も琉紅も現在は魔界で暮らしているからだ

人間界にいるのは蛍明だけ――――

そうなると必然的に前者の可能性が高くなる




「誰が、2人にその事を教えたの?」



華燐と杢火は顔を見合わせると言った



「初対面の、人でした…」

「その人の特徴は?」

「長い金髪に、蒼い瞳が印象的な男の人でした」


ゆっくりと思い出しながら、華燐はこれまでの経緯を話し始めた――――――…











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「ここ、どこ…?」



気がつくと、私たちは街の路地裏にいました
いつもと見慣れた風景なのにどこかが違う――――
途方にくれた私達は、とりあえず母が暮らしている筈の家へと向かいました
(父は普段は魔界で暮らしているので、人間界にいるのは母だけです。所謂母子家庭でした)



きっと母なら何か知っている筈――――


しかし、その期待は裏切られました
家がある筈の所には何も立っておらず、広い空き地が広がっているだけでした


「な、なんで…?どういうことなの…!?」


こんなことは初めてで…
恐怖心が身体を蝕み始めた頃です







「そんな所で、何やってるんだい?」



甘いような、優しいような、男の人の声が聞こえました
振り返るとそこにその男性がいたのです
男性は柔和に微笑みましたが、その笑顔がうさんくさい
出来れば関わりたくないな、と思っていたのですが、その男性は更に話を続けてきます



「ああ、残念だけどここには何もないんだ。何も、ね」


その言い方が妙にひっかかる
私は思い切って、ここが何処かを尋ねました
すると――――――




「君たちはご両親には会えないよ。だって、この世界に君たちは生まれていないんだから」


そこで体温が急激に下がって行くのを感じました
この人は何を言ってるんだろう、って
そう思うのに、何故かその言葉が嘘だとは思えなくて…


「嘘だと思うなら、南野って人の家に行って聞いてみなよ。大丈夫、その人達はこの世界に存在しているから」


南野、私たちも紅光や碧とは友達だったのでその名前を知らない筈はない
でも何故この人が私たちの交友関係まで知っているのか、その事がずっと引っかかっています
私も杢火も妖怪の端くれですから、妖気や霊気の類いを探ることは出来ます
ですが、その人からは妖気も霊気も感じ取ることが出来ませんでした

最後にその人は自分の名前と素性を私たちに教えてくれました

彼の名は、“イディオ”
そして、彼の正体は――――――







「うーん、そうだなぁ…“どっかの星の王子様の劣化コピー”、とだけ言っておくか」













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「どっかの星…?それって、宇宙人ってこと…?」


考えて梅流はぞっとした
彼女は宇宙人の類いが大の苦手なのだ


「見た目は普通の人間と何ら変わりませんでしたが…ただ、その人が何かを知っていることは確かなんです」

「そう、だね…うん。梅流のほうでも、何か手掛かりがないか捜してみるね」


梅流がそう言うと華燐も杢火も呆気にとられたような顔をした



「2人が、元の世界に帰れる方法。だって、2人がいなくなって琉紅も飛影も、きっと心配してるよ」

「あ…」

「華燐ちゃん達が風邪をひいて帰ったりしたら、大変だもんね。しばらくは梅流達の家にいてくれると嬉しいな」



ふわりと優しく華燐達の頭を撫でる
2人は梅流の言葉に小さく頷くと、静かに涙を流した――――――――…







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