第14章 幸せの定義


黒い風と翠の蔦とが攻防戦を繰り広げる
蔵馬は両刃と一定の距離を保っていた

僅かだが、蔵馬が押しているようにも見える


「さすがはS級妖怪だ…そんなにあの女が大事か」

「ああ、大事だ。だがな、両刃。俺は決してお前や裟羅みたいにはならない」


蔦が両刃の肩を貫通し、影が蔵馬の二の腕を貫いた

本来なら激痛が走るものだろう
だが、彼等は表情ひとつ変えなかった


「…俺は間違っていない。大切な者を、何時までも側に置いておきたいだけだ」

「それが間違っているんだよ、お前達は」


貫いた蔦や影はそのままに、蔵馬は両刃を真っ直ぐ見据えた
ポタポタと真紅の鮮やかな血が雪の上に染みを作る


「…本当に大切な者ならば、その者の幸せを考えるのが優先じゃないのか」

「そんな事は綺麗事だろう?お前は今、梅流に愛されてるから解らないんだよ。…いや、若しくは気付いてないのか…」


両刃が自身の紅い爪を口元に運ぶ
ガリガリと爪を噛み千切らんばかりに歯を立てる


「お前達のやっている事は、只のエゴだ…」

「…黙れ…高みの見物のお前に何がわかる」

「ああ、解らないさ。俺はお前じゃないからな。だが、俺はお前達のような奴らを何人も見て来た。自らのエゴで愛する者を不幸にする奴らを」

「黙れ…!!」


両刃は強引に蔦を肩から引き離した
貫かれた箇所から止めどなく血が噴き出る

両手に黒い影を纏わせながら蔵馬へと向かって行く

蔵馬は一歩も動かなかった

両刃が蔵馬の首に両手をかける
ミシミシと嫌な音が耳に入る
両刃の鋭利な爪が首の肉に食い込み、赤い血の筋が出来た






―――どうして、あの人は僕を見てくれないんだろう

―――どうして、叶う筈の無い恋を、僕はしているんだろう…





両刃の内に潜んでいた感情が沸々と湧き出る
怒り、嫉妬、愛情、悲哀…そして、憎しみ

それらが両刃の金色の瞳に浮かび、ギラギラとした光を放つ


蔵馬の固く閉ざされた口から血がツゥ、と伝い落ちる
それを見て両刃は口角を上げた

グッと、更に手に力を込める


――後少しで、殺せる…!!!


両刃がそう確信した時だった




『ガクン…!』


「…!」


両刃の身体から、力が抜け膝から崩れ落ちた
意識はハッキリとしているが、指一つ動かせない
かろうじて動く頭を擡げて蔵馬のほうを見る



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