「悪いな、お前の身体に少し小細工をさせてもらった」


手の甲で血を拭い、口内にある血の固まりをベッと吐き捨てる


「先程お前の肩を貫いた時に、“血毒樹”の樹液を投与した。あの樹液を血管から直接取り入れると、全身が麻痺状態に陥る。
尤も、そうなるまでに時間はかかるけどな。あと少し遅かったら、倒れていたのは俺の方だったかも知れん。」

「お、前…!!」


両刃が忌々しそうに蔵馬を睨みつける
屈んで倒れている両刃を見る蔵馬


「…両刃。お前は…お前達は、それで本当に幸せになれるのか?」

「……!」

「結局傍にあるのは、抜け殻だけだ。そこにもう、愛しい者はいない…。生きていれば必ずどこかで巡り会える。想いは届かなくとも、な。」


両刃は悔しそうに唇を噛み締めた


「じゃあな。お前程の実力者なら、1時間程で動けるようになるだろう」


蔵馬はそう言って両刃のもとをあとにした
降り注ぐ白い雪が、両刃の髪の上に積もっていく
それはまるで、純白の羽根が漆黒の羽根を覆い隠しているようにも見えた――――…












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・














「…梅流、落ち着いた?」

「うん…ごめんね、琉紅」

「大丈夫だよ。大切な人を想う気持ちは、悪いことじゃないんだから」


琉紅はそう言って微笑んだ


「きっと、蔵馬も飛影も、無事だよね…」


梅流が空を仰ぐ
その刹那、雪の降り注ぐに稲光が走った
あの時、琉紅が見たものと同じだった

だが、先程とは違い、何回も雷が空を舞っている
稲光に遅れて耳をつんざく轟音が聞こえて来た

穏やかだった森の木々がざわ付く


梅流はギュッと琥珀を握り締めた


「―――来る…」


そう呟いた時、辺りは目映い光に包まれた
思わず強く眼を瞑る

光が梅流達を包んでいた時間は僅か5秒も無かったかも知れない
だが、その時間はそれよりも長く感じられた

恐る恐る眼を開く

その視線の先にいたのは、一人の少女



金色の髪

桃色の瞳


琉紅と似たような獣の耳と、獣の尾

琉紅の尾とは違い、細く長い形をしていた



少女は意味深に笑いかける





「こんにちは、“瑪瑠”。…いや、『はじめまして』のほうがいいかしら?」






少女の冷たい眼差しに、背筋が凍るのを感じた――――――…






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