俺、固まる。



フィンクスが廃墟に戻り、部屋に入るや否やシャルナークがするりと背後から近寄る。


「やぁフィン、今日も花束買ってきたの?」

「うおっ、シャルか…ノックぐらいしろよ。いや今日は花が少しでも持つっていう栄養剤をな」


フィンクスはいそいそと栄養剤をポケットから出すと部屋中にある花瓶に一滴ずつ垂らしていく。


「あーー、あのさ、フィン」

「んあ?なんだよ」

ルンルンするフィンクスとは真逆にシャルナークはどう言い出そうかと少し暗い。


「団長が今月にはこの仮宿を出て行くって言ってるんだ」

「へぇ、今回は早いな。いつもなら2、3ヶ月は同じ仮宿にいるのに」


フィンクスはまるで他人事のような口振りで変わらず栄養剤を入れていく。


「フィン、仮宿を出ていくってことはここの土地から離れるってことなんだよ?」

「あ?んなこたぁわかってるって。いつも通りだろ」

「離れたらもうフィンの通ってる花屋にはいけなくなるんだよ?」


シャルナークの言葉と同時にパリンとした音が部屋に響いた。
フィンクスの手から栄養剤が落ちて割れた音だ。本人は間の抜けた顔でボーッとシャルナークを眺めている。


「やっと意味がわかったみたいだね」

シャルナークは呆れまじりに溜息を吐く、フィンクスはなにも言わなかった。

割れてジワリとカーペットに滲む青い栄養剤のようにフィンクスの心もジワリと何かが溢れていた。


prev / next

back
×