俺、骨抜き。


カランコロンとベルが響くとシュリさんが俺に気付いて振り返る。

「いらっしゃいませ、フィンクスさん!また来て下さったんですね!」
シュリさんは嬉しそうにふんわり微笑む。

天使だ…ッ
此処に天使がいる。

「この近くに用事があってな、ついでに寄ったんだ」
いくら俺でもわざわざシュリさんに会いに来ましたとは言えねぇ。

「あ、昨日の花束いかがでしたか?」
「あ?あぁ、すげぇ綺麗だった」
「ふふ、そうじゃなくて、彼女さんの反応ですよ!」

彼女さんの反応?


彼女さんの反応!?
もしかしてシュリさんは俺が恋人に花束をプレゼントしたと勘違いしてんのか?

「恋人は、いねぇ」
「?、そうだったんですか、でもフィンクスさんから花束を貰える女性は幸せですね」
「…こんな強面のチンピラから貰っても喜ぶ女なんていねぇと思うけどな」
それに、俺が花束をあげたいのはシュリさんだけだ。
「そんなこと無いですよ!私だったらとっても嬉しいです」
ニコッと笑うシュリさんにまた心臓がドクンッと跳ねる。
落ち着けフィンクス、これは世辞だ!
シュリさんは客商売してるんだ、世辞の一つや二つは言う。
自惚れぬなフィンクス!

「今日はどのお花をお求めですか?」
「あ、あぁ、その、今日は…花を挿す花瓶を…」
「それでしたら此方ですよ」
シュリさんが俺の手を握り締め案内する。
柔らかい、女特有の感触。
ふわりとシュリさんの甘い香りが俺の鼻腔を擽る。

ードクンッ
心臓がッ痛ぇ…!
バクバク煩せぇ心臓を押さえ煩悩を叩き払う。
シュリさんに邪な感情を抱くなんて絶対にしちゃならねぇ、シュリさんは汚れなき天使だ。
俺なんかの煩悩で汚したくねぇ!

「この白陶器もお洒落で素敵ですけど、今は春なので硝子製のほうが彩りが綺麗です、それに硝子製だと夏も使えるし…あ、でもこの…」
「全部くれ」
「え?」
「シュリさんが今紹介した花瓶、全部くれ!」
「え、ぇ!でも、お値段が…」
「大丈夫だ、金なら問題ねぇ、それと今日も花束作ってもらってもいいか?」
「、はい!」
シュリさんは満面の笑みで微笑むとまた手際よく花瓶を包装し、花束を作っていく。

「あの、フィンクスさん」

ードクンッ
名前呼ばれただけで心臓が…ッ
「どうかしたか?」
「私の事はシュリと呼んで下さい、多分私の方が年下ですし」
呼び捨てしていいのか!?
「お、おう…わかった、シュリ、だな」
「はい!」


羽根はねぇが、俺の目の前のシュリは天使だ。


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