好きだとか愛してるだとか言う言葉をあの人から聞いた事は無い。それを嫌と思った事は無いけれど時々、本当に時々不安に思ったりする事は有る。例えば抱き締められた時、心臓が高鳴っているのは自分だけかもしれない。例えばキスをされた時、顔が赤くなっているのは自分だけかもしれない。そう思うと傍に居られればそれで満足しなければならない筈なのに少しだけ悲しいと思ってしまう。両想いなら良いのに、それを確かめるのが怖い。

「…暖かいですか?」
「ああ」

今だって、同じ毛布にくるまって抱き締められて距離の近さにドキドキして。でも同じ気持ちを共有しているとは限らない。期待して期待だけが膨らんでそんな当たり前の事を最近までは気付かないでいた。なんて馬鹿なんだろう。

「わっ」

不意に顔に手が伸ばされてその冷たさに驚きの声が漏れる。キレネンコさんはこんなに近くに居ても何とも思わないのだろうか。あまり表情を変えない。ただ今回ばかりは彼も多少なりとも驚いた様だった。

「ごめんなさい。ちょっと、びっくりしちゃって」
「何、考えてた?」
「あ…気にしないで下さい、大した事じゃ無いですから」
「…そうか」

キレネンコさんは僕の頬に置いていた手を首へと滑らせ項の辺りを掻いた。その心地は眠気を誘うもので意識が微睡んでいく。

「くすぐったいですよ」
「…ん」
「…キレネンコさん」
「ん」
「好きです」
「…ああ」
「キレネンコさんは?」

ぴたり。手の動きは止まったがキレネンコの表情は何一つ変わらなかった。ただひたすらにプーチンを見詰めるその瞳が揺らぐ事は無い。じっと見詰め合いが続き、しかしその沈黙は長くは続かなかった。

「んぶっ!」

キレネンコはプーチンの頭を引き寄せると心臓辺りにプーチンの耳を押し当てる。何か言いたげに顔を上げたプーチンの口を手で覆うとキレネンコは徐に口を開く。

「…お前に触れると心臓が煩くなる」

「へ」と間抜けな顔をしたのも一瞬、プーチンは言葉の意味を理解してみるみる内に頬を朱に染めた。同じだったのだ、自分もこの人も。

「愛しています」

(同じ速度で脈打つ拍動に包まれて目を閉じた)

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昔に書き殴りそのまま消すに消せず晒されたものシリーズ第5弾


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