「──…ッ!!」 目覚めて、其れが自室の天井だと気付く。あの生暖かい液体も鉄臭い匂いも無かった。あれは夢だったのだろうか。ぼやけた意識のまま部屋を出ると、リビングから何かの焼ける音と温かい匂いがした。 「おはよう」 「…おはよう」 やはり、夢だったのだろう。 「フレイキー」 もしもあれが現実だったならば彼女が此処に居る筈が無いのだから。 「今朝はスクランブルエッグとヒーローさんに貰ったパンにしたよ。あ、サラダも昨日作っておいた残りがあるの」 僕が彼女を×す筈が無いのだから。 「朝からありがとう。フレイキーはミルクで良いね」 「うん。今日は温かいのが良いな」 全ての料理を食卓に並べ、彼女と向かい合わせに座る。並べられた料理を前にして、僕の腹はみっともなく鳴いた。 「ふふ、早く食べようね」 「そうさせてもらうよ…」 食材が胃を満たすと、またあの夢の事が思い出された。皿に残ったスクランブルエッグのケチャップがあの液体の様で、其れを隠す様にコーヒーカップを重ねた。 「…朝から元気無いね。嫌な夢でも見たの?」 「…うん、ちょっと。あまり良い夢では無かったかな」 「どんな夢だったの?」 「…僕が、君を、」 口に出すのも酷く恐ろしい事の様に思われた。僕が彼女を×すなんて。そんな事は死んでも望まないのに。 「フリッピーが私をどうしたの?」 「…」 「──×したの?」 まるで何とでも無い事の様に発せられた其の言葉の恐ろしさとは裏腹に、彼女の顔はいつもの穏やかで優しい顔で。其れが余計に、この一瞬を非現実的なものにさせたのかもしれない。 「フレイキ、」 「フリッピー」 僕にそう思い込ませる様に、暗示をかける様に、フレイキーは口を開いた。 「其れはね、夢だよ。悪い夢。だから早く忘れよう。元気の無いフリッピーなんて私は嫌だよ。ね、フリッピー、忘れよう」 だけども僕は見てしまったんだ。君が自分の髪を指先で弄っているのを。君が嘘を吐く時、髪を弄る癖がある事を僕は知っている。 「…そうだね、忘れるよ」 「うん、そうするのが良いと思うよ」 僕は君を×したんだね。 「だってあれは夢なんだから」 鬼灯 (其れでも君は嘘だと笑ってくれるのだね) それは偽りの花 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 唯の思い付きでしたテヘペロ |