すっと頭が冷えていく感覚がして目の前の惨状に身震いした。ああまた僕はこんなにも人を殺したのか。両手で握っていた腸は恐らくカドルスであろう身体に繋がっていた。血だらけでよく分からなくなっている。夢見心地な気分から急に現実に戻ってまだ頭の回転が鈍かったのだろう。でなければ僕が気配に気付かない訳が無い。後ろからドンッと衝撃を受けて途端に背中からじわりと広がる熱さ。何事かよく分からず振り返るとそこに居たのは見間違える筈も無いフレイキーだった。僕から離れたフレイキーの両手から柄まで真っ赤に染まったナイフが落ちて、同時に僕の口からも同じ色をしたものが吐き出され無様に地面に倒れ込んだ。 「貴方は、フリッピーなの」 フレイキーは覚束無い足取りで僕に近付き膝を着いた。その表情は長い髪で隠されて見えない。 「フリッピーは、こんなことしない、よね」 「…」 「きっと、きっと悪いモノが憑いたんだよね、そうだよね、フリッピーは、優しいもんね」 「…フレイキー」 「でももう大丈夫だよ、私がちゃんと殺したから、もう大丈夫だよフリッピー」 「フレイキー、聞いて」 「ごめんね痛かったよね本当にごめんねこうするしか分からなくてごめんねごめんねごめんね」 ごめんねと繰り返す彼女の腕を掴む。ハッとして上げられた彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。その時どう答えるのが一番良かったのか今でも分からないが、僕は恐らく一番残酷な答えを彼女に与えてしまった。 「…『僕』は、僕なんだよフレイキー」 「……ち、違うよ」 「違わないんだ。僕は何にも憑かれてなんか無い。あれは『僕』」 「どうしてそんな、意地悪言うのフリッピー」 「……ごめんね」 「そんなの、そんなの聞きたくない、やだ、いやだ、いやああああああああああ!!!!」 そして彼女は自分で自分の頭にナイフを突き刺して死んだ。頭と言うより耳かもしれない。余程聞きたくなかったのだろう。開かれたままのフレイキーの涙で濡れた眼には泣いている僕が映っていた。 もう少し私が強かったなら (誰が死ぬ事も無いだろうに) ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ フレイキーがフリッピーを刺すって言うのがポッと浮かんだので ← |