母と引き離されたあの日。母さんは俺達二人を抱き締め泣きながらごめんね、と何度も謝った。いつも笑顔の絶えない母の泣き顔を見たのはそれが最初で最後だった。訳が分からないまま知らない男達に腕を掴まれて。乗せられた車から後ろを振り返った時に見えた母さんはずっと泣いていた。声が聞こえたわけではないけれどその口元は確かに二人の名前を呼んでいた。届くわけがないのに手を伸ばして───。そして目が覚める。 「………」 伸ばした右手は空を掴むだけで酷く虚しく思えた。母さんは今どうしているんだろうか。無事に生きていれば良いけれど。会いたくないと言えば嘘になるが自分に会う資格があるとは思えない。大勢を殺した自分に。それでも、会いたく、て。 「キレネンコさん…?」 伸ばしたままの右手を誰かの手に包まれる。声のする方へ目を遣ると心配そうにこちらを伺うプーチンと目が合った。 「大丈夫ですか?凄くうなされてたみたいですけど…」 「………、」 「…無理しないで下さいね」 プーチンは笑って、握った手に力を込めた。その笑顔が記憶の中の母と一瞬重なって。やっと手が届いた気がした。涙が出て止まらなくて。繋いでいない方の手で顔を覆った。プーチンは静かにキレネンコの頭を撫でる。 「…いつも僕にしてくれますから」 声を出すことはなかったけれど、とにかく涙が溢れて仕方がない。握られた手を自分の方に引き寄せる。プーチンはキレネンコの頭を撫で続けたまま何も話さない。キレネンコが時々息を吐く音だけが響いて。 今度は離さないように、離れないようにするから。 嗚咽を漏らした満月の夜 空が白むまでこのままで。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 双子の母親はとても愛情の深い人 珍しくキレが慰められる話になりました… ← |