キレネンコさんの背中は僕と比べて一回りくらい大きい。背中同士をくっ付けて凭れ掛かってもびくともしない。落ち着くなぁ。

「また雑誌読んでるんですか?」
「……ああ」
「好きですねー」
「……ああ」
「…聞いてます?」
「……ああ」

僕の相手もしてくれたって良いのにもう。何か面白いことあるかな…。

「あ」

ぱっと飛び起きて身体を離す。キレネンコさんの正面に回って顔を覗き込んだ。それでも眉一つ動かされはしなかったけど。

「キレネンコさん!」
「…何だ」
「あの、背中に文字書きますから当ててくださいね!」

もう一度後ろに回って、キレネンコさんの背中に手始めに「あ」と人差し指で書いた。

「分かりました?」
「…あ」
「正解!じゃあ次はですね…」
「ぷーちん」
「当たり!じゃあ…」

「にんじん」とか「すにーかー」とか目についたものを書いていく。キレネンコさんはちゃんと答えてくれて、こんなどうでもいいようなことに付き合ってくれるようになったのはいつからだったっけ?

「んー…次はー……」

この部屋にあるものは大体書いてしまったし。何書こうかな…。

「…まだか?」
「あ、ちょっと待って下さい…えーっと……」

何か…何か何か。

「えと、じゃあ…」

なんとなく恥ずかしくて小さく書いてしまったけど分かったかな?

「……すき」
「…正解、です」
「…次は?」
「え?えっと…えーっとー……」
「…また一緒か」
「だっ、だってキレネンコさんが急かすから…」

なんかもう「すき」しか出て来ませんよ。あーあ、絶対顔赤くなってる。

「プー」
「は、はい」
「あっち向け」
「え?」
「………」
「あ、あっちですね?」

キレネンコさんが指差した通り身体の向きを変える。今度は僕がキレネンコさんに背中を向けている形になった。

「あの…」

何ですか、と聞こうと口を開いた時背中にキレネンコさんの指が当たった。

「当てろ」

キレネンコさんの指が背中を這う。くすぐったい感覚が背筋を伝った。一体何を書かれるんだろう。

「……キ、キレネンコさん!」
「………」
「…ありがとう、ございます」


笑ったら頬を引っ張られて、それでもやっぱり笑ってしまった。


あなたをなぞる
『おれも』

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背中に字書き合うのとか可愛いと思います^^




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