軍臆


村にある大きな木の下に赤い少女が一人踞っていた。

「これじゃあ帰れないなぁ…」

ポツポツと地面に染みを作っていった雨は止まる勢いを知らずそのまま降り続いた。生憎と傘は持っていないし家までは遠い。濡れるのは嫌だし、かと言ってここで待っているのもいい加減寒くなってきた。見上げると青々と繁った葉の隙間から鉛色の空が見える。木の幹に身体を預け、さてどうしたものかと思案する。濡れて帰るか、止むまで待つか。どちらにせよ風邪は引くだろう。

「(……ついてない)」

天気が良かったから散歩に出掛けたのに。家で大人しく本を読むなり掃除をするなりしておけば良かった。じわじわと目頭が熱くなる。泣いてもしょうがない。しょうがないけど泣くくらいしか出来ない。誰か来ないかな、なんて都合の良いことあるわけがない。

「フレイキー?」

と、思っていたのにどうしてこの人はここに居るんだろう?

「どうしたの、風邪引くよ?」

彼が着ていたカーキ色の上着を頭から被せられる。裾を握って小さくなると彼の温もりが伝わってくるようだった。そして何より彼の、フリッピーの匂いが不安だった気持ちをどんどん消してくれる。フリッピーは傘を閉じ、フレイキーと同じく大木の下に腰を下ろした。

「…どうして、ここに?」
「夕飯の材料買いに行ってたんだ。でもまさか雨が降るなんてねー…」
「……私も」
「ずっとここに?」
「傘、無くて。帰れないから」
「…冷えてるんじゃない?」

フリッピーはフレイキーの手を両手で包み込み、息を掛けて優しく擦る。擦られたところからじんわりと温かくなって、でもそれと同時に心臓がどきどき鳴って。

「…やっぱり冷たいね」

伏し目がちに呟いた彼の顔が凄く綺麗で。寒いはずなのに、熱くなった。

「僕の家、来る?」
「え?」
「ここからならフレイキーの家より僕の家の方が近いし。ね?」
「…迷惑じゃ……」
「そんなこと!大歓迎だよ」

フリッピーはいつも甘やかしてくれる。私はいつも甘えてしまう。良いのかな。本当に迷惑じゃないのかな。でも、ああ。その笑顔を向けられてしまったからには私はもう断ることは出来ない。

「…行っても、良い?」
「勿論!」

フリッピーは立ち上がり、先程買ったのであろう値札が貼られたままのビニール傘を開く。

「行こっか」
「うん」




36℃の中毒性
差し出された手を取って、貴方の家まで一直線。



な・ん・だ・こ・れ。あ、いつものことですね←
ricca様、リクエストありがとうございました!甘いのかなんだかよく分からない仕上がりですがどうぞ^^あ、勿論返品可ですので!此度はありがとうございました☆



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