労銭
ショケイスキーが熱を出した。ただでさえ不健康そうな彼女だ。季節の移り変わりのこの時期は身体に堪えるのだろう。カンシュコフはショケイスキーが心配だったようでいつもより早く仕事を終わらせ、今は付きっきりで看病している。まあ呼吸も落ち着いているし任せてしまっても大丈夫だろうと二人を残して部屋を出た。自分の仕事はまだ終わっていなかった。時計を見ると午後九時。徹夜になるだろうか…まあいい、とりあえずコーヒー飲みたい。台所へと向かうと冷蔵庫を物色するロウドフがいた。ああもう電気代が勿体無い。
「開けっ放しにしないで」
「あ、なあゼニ、ビールは?」
「昨日ので最後。今日はショケイスキーが熱出したし…買いに行けなかったから」
「じゃあ仕方無えか…ショケイは大丈夫なのか?」
「うん。今はカンシュコフが面倒見てる」
「そうか」
「…コーヒーなら今から淹れるけど?」
「貰う」
水が沸くまでには時間が掛かる。ゼニロフがその場に座り込むと隣にロウドフも並んだ。ふう、とゼニロフの溜め息が部屋に響く。
「……ショケイスキーの面倒見てたらさ、なんか妹のこと思い出しちゃったよ」
「そう言や、よく風邪引いてたよな」
「だから医者目指してたんだけどね…」
辞めちゃったけど。そう言った時、ロウドフが息を詰めたのが分かった。……何か駄目なこと言ったかな?
「…悪かった」
「え?」
「俺のせいで学校辞めたろ」
なんだそんなこと……気にしてくれていたのかな、ずっと。
「気にしてたんだ?」
「…ちょっとな」
「自分で決めたことだから良いの。俺はお前と居たかったから」
「………」
それでもロウドフはまだ申し訳なさそうな顔をしていて。全く普段は雑把のくせに変なところで気遣いなんだから。逞しい身体に自分の細っこい腕を巻き付けた。これが欲しくて自分はここまで追い掛けてきたんだなぁ、なんて。人を動かすのは随分と小さなことでも十分らしい。
「…好きだよ。ずっと前から」
「……知ってる」
頭をくしゃりと撫でられて心地好かった。仕事がまだ残ってるのに急に眠気が襲ってくる。…まあ良いかな、一日くらい。
「眠…」
「運んでやろうか?」
「うん、ありがと」
ひょいと抱え上げられて、三十路前になってまさかお姫様抱っこだなんて想像もしていなかったけど案外悪くなかった。ゆらゆらと揺れるその振動と彼の体温が徐々に眠りへ導いていく。
「…おやすみ」
「……おやすみ」
今が一番幸せだと思った。
あたしが時々眩むのは、君といる時間が夢よりずっと甘いから
(…なあ、シても良い?)
(……寝る!)
労銭好きですが滅多と書きませんねぇ…三十路前の恋なんて私には……泣←。気に入らなければ言ってください!またのご訪問お待ちしております☆
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