本当に、気紛れだった。あんまりに話し掛けてくるものだからほんの一言二言くらいの返事をしただけだったと思う。それだけのことで541番はこんなにも喜んだ。心底の笑顔だった。媚びるでもない無理矢理にでもない本当の笑顔。正直驚いた。こんな風に笑うことが出来る人間が居ることに。ましてやそれが自分に向けられていることに。

「04番さん?」

541番が少し不思議そうに俺を見た。

「あ、あの、ごめんなさい。煩かった…ですか?」
「……」
「あ、えと、僕初めて04番さんの声聞けたから…嬉しくって」

頬を掻きながらはにかむ541番。そう言えばこいつの名前は何て言ったっけ。

「……名前は?」
「?」
「……」
「……えと、プーチンって言います、けど」

何と言うか見ていて飽きない奴だ。まあ自分にとって害にはならないようだから名前くらい教えておいてやろう。

「……キレネンコ」
「ほえっ?」
「(……変な声出す奴だな)」
「も、もしかして04番さんの名前…ですか?」

分かるか分からないかくらいの頷きを返すとぱぁっとプーチンの顔が綻んでいった。

「カッコいい名前ですね!…えと、じゃあこれからは名前で呼んでも良いですか?」
「…好きにしろ」
「え、良いんですか!?うわー僕すっごく嬉しいです!」

くるくると表情が変わっていく。今まで出会ってきた奴等とは大違いだ。単純ですぐに顔に出る。

「じゃあ…改めて。これからお世話になります、…キレネンコ、さん」

照れ臭そうに名前を呼ばれて何だかこっちまで照れそうだった。まあ悪い気ではないけど。そう言えば初めてスニーカー以外のものに興味を持った、なんて考えながら俺は雑誌に目を戻した。


やっと今、初めましてのご挨拶
(あれ…?キレネンコさん笑ってる?)

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
プーが収容されて三日後くらい
初めて会話らしい会話をした日




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