「栄口〜」
「あ、水谷」
どうしたの、と発することはできなかった。
「み、水谷」
「うん」
「なに、してんの…?」
「抱き締めてる」
「それは、見ればわかるけどさ…なんで、急に」
「…栄口のこと、すーっごい好きだなーって思ったからさ」
「!」
そう言って水谷は笑うと、再び俺を抱き締める。
俺はそれに抵抗はしないけれど、抱き締め返すことはしない。
ただ、抱き締められる。
「俺さ、栄口のこと好きでいられて幸せ!」
「…ありがとう」
俺は水谷の言葉に、ただありがとうしか言えない。
俺も好きだよ、なんて、俺は怖くて言えない。
触れ合っている部分ら伝わる温もりが、怖くてしょうがない。
「水谷はすごいね」
「え、なんで?」
「優しくて、強くて、俺にはもったいない」
「…俺は、栄口じゃなきゃ嫌だよ!」
「そう?」
「そうだよ!言っとくけど俺、栄口が思ってる以上に栄口のこと好きだもん!」
「そっかぁ…」
目の前でそう話してくれる水谷が、俺は好きだ。
水谷が思ってる以上に、俺だって水谷が好き。
だけど、だけどね。
俺、怖いんだ。
いつか俺を置いてくんじゃないかって。
このまま好きでいるのが、どうしようもなく怖い。
わかんないよ。
だきしめないで
(あと少し)
(完全に君に堕ちてしまう前に、どうか)
俺は、このまま水谷のこと好きでいていい?
―――――
失う怖さを知っているから好きでいることは怖い。