星空を見上げたの続きになります
※死ネタ注意



空気が重苦しく冷たい。
まとわりつく空気が、嫌々しくも現実を写す。


「阿部…」
「…んでだよ!」


阿部くんはいなくなった。
世界のどこを探しても、もう阿部くんはいない。

目の前に横たわる阿部くんは、真っ白で冷たくて。
もう二度とその目が開かれることも、声が聞こえることも、笑顔が見られることも、ない。


「阿部の、バカやろ…」
「俺、なんにも知らなかったじゃんか」


泣き崩れる人もいた。
必死に唇を噛み締めて、涙を堪える人もいた。
大声をあげる人もいた。

だけど俺は泣かず、ただ、阿部くんを見ていた。


「俺…知ってたんだ」
「俺も、知ってた」
「「!」」
「なんで、なんで花井と栄口にだけ…っ!」
「教えてくれたって、よかったじゃ、ねーかよ!」


…そっか。
花井くんと栄口くんには、阿部くん言ってたんだ。

俺には言ってない、けどきっと、それは。


「阿部、が…」
「あ!?」
「…最期、まで、普通に野球がしてー、って」
「…!」
「っ、三橋は!」
「三橋も、知らされて、なかったんでしょ…?」
「…知らなかった、よ」
「せめて…せめて三橋には教えてやればよかったじゃねーか!」
「でも、阿部が…っ!」
「泣くから、言わない、言うなって…それにっ!」
「それになんだよ!」
「みは、し、はっ…もう」
「…?」


栄口くんが、泣きながら零す言葉の意図を理解する。

栄口くんが言いたいのは、きっと。


「気付いてた、よ」
「…」
「え…?」
「阿部くんが、いなくなるって、わかって た」
「…やっぱり」
「なん、で」


不思議そうに、俺をみんなが見つめる。


「…だって阿部くん、わかりやすい よ」
「どこが…」
「ときどき、悲しい目で俺とみんな 見てた」
「っ」
「それに、俺は」
「…」
「阿部、くんが 好きだから、見てたから」


「わかっ、ちゃった」


そう言ってから、ゆっくり笑うと、他のみんなが、苦痛に顔を歪めた。


「なに、笑ってんだよ」
「わかってても、悲しいもんは、悲しいだろ…!」
「悲しい、よ」
「じゃあなんで笑ってられるんだよ!!」


みんなが、俺に、悲しい目を向けている。

わかってる。
こんな状況で、笑ってる方が、おかしい。

だけど俺は、


「やくそく、したんだ」
「…は?」
「阿部くんと」
「なに、を」
「笑ってる、って」


約束、したんだ。
俺はもう泣かないって。

ホントは今だって、悲しみと苦しみと絶望で胸が押し潰されそうで。

阿部くんはもういない。

あの柔らかな温もりに触れるのも、落ち着いた声で名前を呼ばれるのも、抱き締めてもらうのも、頭を撫でてもらうのも出来ない。

記憶の中にしか、阿部くんは、いない。


それでも、


「笑って、さよなら、するって 決めた、んだ」
「…!」
「阿部くんが 大好きだから、最期の約束くらい、守りたいんだ」
「バカやろ…」


泉くんに頭を叩かれた。
田島くんにも。
栄口くんは俺をぎゅってしてくれた。
他のみんなも、俺を、しっかりと見ていた。

そんな中、俺は冷たい阿部くんに視線を戻して、もう一度、笑った。





ばいばい、よなら

(泣かない、泣かないよ)
(笑顔が好きだって、笑って、って言ったから)





どんなに離れても、俺はずっと、阿部くんが好き。



―――――
さらに続編…でしたが!
うー、もっと文才が欲しいです(´Д`;)
泣かない三橋を書きたかったのでした、はい



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