※シリアス注意



俺、死ぬんだってさ。


阿部がつぶやいた言葉はいやに部屋中に響いた。

静かなわけじゃない。
なのに、阿部の言葉が部屋中を、俺を飲み込んだ。


「………は?」
「何、言ってんだよ」
「…二人はキャプテンと副だし、言っとかなやきゃと思って」
「あ、べ」
「わりーな、呼び出して」
「阿部」
「今日は練習「阿部!」


花井の声が、阿部の声をさえぎった。
状況についていけずただ呆然とする俺と違い、花井は声を荒げていた。


「どういう、ことだ…!」
「どういうことって、まぁそのままの意味だよ」
「わかんねーよ!」
「は、花井落ち着「落ち着いてなんかいられっか!」


たしかに、落ち着いてなんか、いられない。
だけど、だけど…っ。

俺と、その隣に座る花井、それから目の前のベッドに横たわる阿部。

嫌な空気が俺たち三人を包みこんでいく。


「………なん、で?」


その空気のなか、やっと絞りだせた俺の声。
きっと、震えていた。


「…手遅れ、なんだって」
「手遅れ…?」
「もっても、あと、1ヶ月くらいらしーわ」
「い、っかげ、つ」
「それ以上先の未来に、俺はもう、いないんだ」


ぽつりと紡がれた言葉。
それはあまりにも衝撃すぎて、俺の胸は、破裂しそうだった。


「夏大は、無理だわ」
「…っ」
「甲子園、一緒に目指せなくなった」
「嘘、だろ……?」
「事実だよ、まぁ、しょーがない、だろ」


そう言って、阿部は笑う。

痛々しい笑顔で。
壊れそうな笑顔で。

…ばか、絶対泣くな俺。


「他のやつらには、言わないでくれっか?」
「え…?」
「部活は、最期まで普通にやりてーからさ」
「最期、って…!」
「いいだろ別に、野球、最期までやってたって」
「…そう、だけどっ」
「…ごめんな」


俺が耐えるに耐え切れず俯くと、阿部はそう言った。


「ホントは誰にも言わないつもりだったんだけど」
「…俺ら、には?」
「すっげー酷なことしてんのはわかってる、これからあと1ヶ月のやつと野球させるなんてさ」
「酷なんかじゃ、ねぇ」
「…俺らは、阿部と、野球がしたい」
「…さんきゅ」


あぁ、だめだ。
阿部の声を聞いているだけで、じわり涙が滲む。
花井も唇を噛んでいる。

阿部は、笑ったまま。
…一番つらいのは、阿部だっていうのに。


「…三橋、は?」
「知ってんのか…?」
「…言わねぇよ」
「な…っ、言えよ、言わなきゃ後悔、すんぞ」
「大事な人、だろ」
「…」
「恋人だろ、お前の!」
「好き、でしょ…?」
「…三橋は、泣くから、言わねーよ」


そのとき、一瞬だけ、阿部の顔が悲しみに歪んだ。


「…その、三橋だけど」
「…んだよ」
「二人に話したのは、三橋のことがあっからなんだ」
「なに…?」
「………俺がいなくなった後、あいつのこと、……………頼むな」


…いなくなった、後。


「ほらあいつさ、俺もそうだけど、俺に依存してるとこあるだろ」
「…っ」
「あいつ、引きずりそうだろ、絶対、俺のこと」
「そう、だな…」
「…だから心配なんだ、あいつには幸せに、なってほしいからさ」
「…!」
「…わかった、ちゃんと俺らが…三橋、支える」
「ごめん、な」
「謝んなよ!…ばか」


そのときにはもう、俺の顔は涙でぼろぼろだった。
泣くなって思っても、無理なくらいに、溢れて。



だってホントは、

誰よりも、阿部が、

阿部が三橋を、

幸せにしたかったのに。



「栄口、泣きすぎ」
「っ、ごめ…」
「花井も、唇噛みすぎて血色わりー」
「…そうか」
「…」
「…」
「…」
「………あーぁ」


阿部は天を仰ぐと、手で顔を覆っていた。


「置いていきたくねー」
「…連れてくなよ」
「連れてくか、あほ」
「阿部ならやりそうだ…」
「失礼なやつだな」
「…わりー」
「……でもさ、やっぱ」
「なに」
「心残りがあると」


俺たちに告げた阿部は、泣きながら笑っていた。





にたくなんてないよ

(そう言って笑う君)
(きっと想うのはあの子のことでしょう)





「ま、あと1ヶ月、よろしく頼むな」
「…あぁ」
「よろ、しく…ね」


ごめん、何も出来なくて。



―――――
シリアス書いてしまった←
しかも死ネタ?という…
これは続きがまだ書きたいですね、えぇ
イメージは2年生



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