「なぁ泉、三橋ー」
「?」
「なんだよ」
「もしさ、自分がキオクソーシツってやつになったらどうする?」


ぴた、っと俺と泉くんの動きが止まった。


「記憶、喪失?」
「そ、大事な人とか野球とか、全部忘れんの」
「…記憶喪失なぁ」





「「「…」」」





「悲しい、ね」
「そうだな」
「俺花井のこと忘れるとか耐えらんねー」
「忘れてたら、そんなのもわかんねーだろ」
「そっか、そーだな」
「…すごく、悲しい、ね」
「なかったことになんのかな、全部」


悲しい、よ。
悲しすぎる、そんなの。

野球のことも、家族も、友達も、…阿部くんも。
忘れちゃうなんて。
なかったことに、なるなんて…そんなの。

きっと俺も阿部くんも、どっちも悲しいんだ。


「でもそんなのどーしようもねーだろ、忘れちまってんだし」
「…忘、れる」
「なんとかして思い出せねーのかな」
「思い、出す…」
「なんか手紙とか写真とかさ、そんなんあればいいんじゃねー?」
「よくドラマとかであるよな、思い出すの」
「実際、そんなうまくいかねーだろ」
「…」
「…」
「…三橋は?」
「ふぇ?」
「三橋は、どう思う?」
「…俺、は」


確かに、忘れてしまえばどうしようもない。

だけど、きっと。


「俺は、ね?きっと」
「なに?」
「忘れても、記憶をなくしたと、しても」
「うん」
「身体が、ね…覚えてる、と思う、んだ」
「身体?」
「そう」


記憶をなくして、真っ白で空っぽになっても。


「俺が、阿部くんを好きになったって記憶は消えちゃうけど」
「だろうな」
「阿部くんと手を繋いだこととか、抱き締めてもらったこととか」


「身体が、覚えてるよ」


「そーだなー…」
「それから、阿部くんのこと忘れても、好き」
「…どーゆーこと?」
「俺ね、阿部くんのこと、大好き、だよ」
「知ってる」
「すっごくすっごく好き、だから、きっと」
「…きっと?」
「忘れても、また、好きになるんだ、よ」
「もっかい恋すんの?」
「うん、だから、」





たとえ憶をなくしても

(大丈夫だよ)
(好き、って気持ち、は消えないから)





「心の底から、想ってたらきっと、忘れても、思い出せる よ」
「「…」」
「だって、好き、だ!」
「…だな!俺もぜってー花井のこと思い出す!」
「…お前らって、ホント楽天的だよな」
「泉は浜田のこと思い出さないのかー?」
「…思い出すよ、きっと」



「…声、でけぇっての」
「俺、今なら死ねる」
「(…浜田さん)」
「花井恥ずかしーな」
「うっせ…でも三橋からあんなふうに言うとはな」
「なー」
「三橋ってホントかわいいやつだな…」
「「え?」」
「え?」



―――――
自販機から帰ってきた浜田と、用事で来た阿部と花井は聞いていた(笑)
水谷は置いてきぼりという始末になりました←



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -