「はい、着替えと…あと歯ブラシとか」
「ありがとうツッくん…ずいぶん濡れてるわねぇ」
「うん、途中で雨激しくなっちゃって」
「そう…帰り道、気を付けて帰るのよ?」
「わかってるよ」
「本当にありがとうね」
「明日も来るから、ちゃんとゆっくり休んでよ」
「はいはい、じゃあね」


ホントは、母さんが心配だし、ずっと付きっきりでいたかった。
だけど病院に泊まるわけにもいかないでしょ、と母さんに言われた。

…でも、やっぱり、心配。


「ねぇ、やっぱり俺今日は病院に「ツッくん」


泊まりたい、と言おうとして、言葉は遮られた。
母さんは、少し困ったように笑ってから、言った。


「ツッくんが心配してくれるのは嬉しいけど、明日も学校でしょう?」
「…う」
「明日、学校終わったらでいいじゃないの」
「でも…心配だし」
「大丈夫だから帰りなさい?また雨強くなるわよ?」
「…わかったよ」


少しため息をついて、やっと俺は立ち上がった。

それから母さんにさよならをして、もう一度病室のドアを閉めた。


またこのどしゃぶりの中帰るの…嫌だな。


「雨、止めばいいのに」


窓ガラスに張りついて空を見上げるが、止む気配はまったくない。




………?





外に、誰かいる。
この雨の中、中庭に立ってるみたいだ。

…もしかして俺のこと、見てるの?
そこにいた人は、パッとこちらを見上げていた。


「あ、さっきの…」


それはさっき、目が合った少年だった。


「…」


何してるんだ。
風邪ひくじゃないか。

入院、してるみたいなのに…病状が悪化したらどうするんだろう。

「あ…」


彼は、笑っていた。
とても悲しげに。


「…〜っ、あぁもう!」


気付いたら、俺は走りだしていた。





どうしてかはわからないけれど、ただ無我夢中で。

俺は彼のところへ走った。





「はぁっ…はぁっ」


中庭への出口へ着くと、ドアの外に、彼がいた。

また、笑ってる。


ゆっくりドアを開けて、俺も外に出た。
さっきよりも、ずっと近くに彼がいる。

心臓が、いやに激しく鼓動していた。
ドキドキ、してる。

…なんか俺、おかしい。


「…何してるんですか?」
「…」
「風邪ひきますよ?」
「…」
「濡れちゃいますよ?」
「…濡れねぇよ」
「!」


初めて聞いたな、彼の声。

…って、あれ?ホントだ、濡れてない。
外にいるのに、なんで?

…あ、木か。
彼は木の下にいるから、濡れてない、のかな。


「濡れちまうぜ?」
「え?」
「お前が」
「あ…」
「こっち、来たら?」
「え?あ…、はい」


手招きされて、同じ木の下に入る。
ホントだ、濡れない。


「…」
「…」
「…あ、あの」
「んー?」
「こんなところで、なにしてるんですか」
「秘密」
「え、あ、その、ご…ごめんなさいっ」
「…ははっ、お前おもしれーのな!」
「え、えぇ?」
「転んだとこ、平気?」
「〜っ!」
「はははははっ」


ケラケラ、さっきとは違い楽しそうに笑っていた。

この人、いったいなんなんだよ…!


「あー、おもしれー」
「うぅっ」
「…なぁ、名前」
「…え?」
「お前の名前は?」
「さ、沢田…綱、吉」
「沢田綱吉…じゃあ、ツナか!俺、山本武」
「え、え、えぇ?」
「よろしくな、ツナ!」
「な、なにが…?」





なにもわからない。
なにも知らない。

そんな彼はまた俺の目の前で、にぱっと笑った。



どうしよう、また、心臓がおかしい。



―――――
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山本とーじょーっ!
しかし、不審人物(笑)



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