ここ最近は土日すら忙しそうにしていた彼の、久しぶりの休みらしい。
 聞いたのは昨夜のことで、突然のそれに驚いたのは言うまでもない。まさか出掛けようだなんて言われるとは思っていなくて、その場で聞き返したくらいだ。――私と彼は、付き合って以来デートらしいデートをしたことがなかった。
 主な原因は、私が室内にいたがるからなのだけれど。

(……一人でなら普通に出掛けるのにね)

 付き合い始めた当初、二人でいるときは落ち着ける家がいいと私が言ったそれを、彼はほとんど忠実に守っている。

「起きてる?」

 お昼を前にした午前十一時、そろそろ起こそうと彼の部屋のドアをノックする。しかし反応はなく、起きた気配もない。さすがにノックぐらいでは無理ということか。
 ならばと、せっかくなので音をたてないようそっと中に入る。ベッドの膨らみは素通りして窓に近づき、カーテンを開けた。差し込んだ日の光に、彼がかすかに身じろぎをする。

「起きた?」

「…………、んん……」

 残念、まだ起きない。

「……」

 どうするか。頭まですっぽりと隠していた布団を肩のあたりまで下げながら、考える。
 お互い寝室は別なため、寝顔を見れる機会は意外なことに稀だ。こうして目の前にすると、何だか、すぐに起こしてしまう気分にはなれなかった。
 ――そういえば。毎朝七時には家を出ていた彼を、こんな時間に見るのは何日ぶりだろうか。
 こうして同居していても、お互い、生活のサイクルはまったく異なる。どちらかと言えば規則正しい彼に対し、私の生活は他人から無職と認識されるほど不規則極まりない。下手をすれば、同じ家にいながら何週間も顔を見ずにいることすら可能だった。
 だからだろう。彼は私のどんな我が儘にも首を振らないけれど、ただ一つ、食事の場を出来る限り一緒にすることだけは譲らなかった。――今ではそれが唯一の繋がりだ。

(……あれから、何ヶ月たった?)

 不意に、考える。異状がひどくなったのは、夏も盛りに入ったころだった。
 それから数ヶ月たてど、それは治まる気配を見せない。そして食事時以外で彼と会わなくなり、同じくもう、数ヶ月。気がつけば、秋はもう終わりへと差し掛かっていた。

「……起きて、」

 今の時期、朝方はすっかり肌寒い。昼時ともなればまだマシだけれど、やはり布団一枚では心許ない季節だ。
 簡単な衣更えは少し前に済ませたが、勝手に触るのもどうかと思い、彼の冬物はまだ押入れの中だった。

「……、ん」

 肩まで下げた布団が寒かったのか、寝返りを打った彼が羽毛の温もりを引き上げる。こちらに背を向け、再び頭まですっぽり隠れた彼はよほど疲れているらしい。

「ねえ、起きないの」

 再度、声をかける。彼は動かない。身体は、布団に包まったまま。
 けれど、知っている。先ほどまで見ていた、その寝顔が――穏やかな寝顔がその下にある。差し込む陽射しに、明るい部屋の中で。
 その事実に、ひどく泣き出したくなった。



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