前にも後ろにも、右にも左にも女、女、女。
 元からそうだとはいえやけに男が少ないなと見ていたら、そういえば一・二年の男子クラスは授業中だったと思い出す。芹生はサボりの身なので忘れていたのだけれど、今ごろ同じクラスの連中は、教師らしからぬ金髪の授業を受けているはずだ。
 つまり校舎から吐き出されていく女子の中に、申し訳程度に混じる男子は三年生だろう。男子と女子でクラスを分けるようになったのは、今の二年が入学した年からだ。
 曰く不純異性交遊を防ぐため、らしいが、だったら始めから共学になどするなという話だろうに。校門へと向かう人の流れをぼんやりと眺めながら、そんなことを思う。

(……アホらし)

 ――元は。灯華学園というところは、それなりに有名な名門の女子校だった。
 言うなら幼稚舎からあるような由緒正しい大層な学園であり、生徒のほとんどが箱入りの子女だ。学力のレベルも高く、高等部の外部受験となると県内でも相当な難関校だという。
 しかしその所為か生徒の大半が中等部からの持ち上がりで、そしてそれらは共学になった今でも変わっていない。共学の間に挟まった女子校≠ニいう囲いは、学園の運営者が思っていた以上に厚いのだろう。
 現に五年たった今でも、男女の差は圧倒的だ。募集の際は二つが予定されていた男子クラスは、実際に作ってみれば一つでやっとというのが現状だった。

「……あー」

 だからそんな環境で起こったそれは、ある意味で当然なのかもしれない。帰宅していく人の流れの中に仲良さげなカップルをいくつか見つけ、思わずため息が漏れた。つい昨日、彼女にフられたばかりの芹生には頭の痛くなる光景だ。――ああ、まったく。

「いっそ滅んでしまえばいいのに」

「……………」

 思わずそんな言葉を吐き捨てる。特に誰かに向けて言ったわけではないので適当に流してくれて構わないのだけれど、さすがに出来なかったらしい。
 ため息と一緒に漏らしたそれに、向かいに座っていた四辻が動きを止めた。

「一応聞くけど、何が?」

「カップル」

「……ああ、フラれたんだっけ」

 なら大事にしろよ。作業を中断し、シャーペンを片手で器用に回し始めた四辻から至極まっとうな意見が返ってくる。大事にしろよ。――確かにその通り、なのだけれど。

「していたつもりだよ。少なくとも、こちらとしては」

 それなのにこのザマなんだから、あとはもう第三者にアドバイス貰うしかないのかな。なんて、思ってもないことを口にする。さすがにそこまで思い悩んでいるわけではない。
 とはいえ、どこかでショックを受けていることは確かだ。告白は向こうからであったけれど、付き合うことを了承したのだから多少は好意があったのだ。

(……まあ、どちらにしろもう別れちゃったんだからいいけど)

 仲良さげに歩くカップルが羨ましいとか思ってない、思ってない。……ちくしょういちゃいちゃしやがって…。

「やっぱり滅んでくれないかな……」

「羨ましいなら羨ましいって素直に言えよ」

 まったくだ。

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