中間試験は終わったものの、それで楽になったかと言えば実はそうではない。すぐに文化祭があるからだ。
「んじゃー始めるよー」
どこか気の抜けたクラス委員の声を合図に、各々自分の役割に従って動き出す。委員どころかクラス全体がやる気のなさに溢れていて、しかしそれでも大した支障はないのだから羨ましい。
そもそも準備といっても、うちのクラスがやるのはただの屋台だ。焼きそばやたこ焼きなどの定番をいくつか売るだけなので、大した役目もなくヒマを持て余している奴らも少なくない。男しかいないクラスの出し物なんて、そんなものだろう。
それでも根が真面目だからか、サボろうとする奴らはいないのだけれど。――ただ一人を除き。
『壁┃ω・`)サボる』
相変わらず腹の立つ男め。
「あれ、四辻は?」
「え、そういえばどこ行ったんだあいつ。一条知らねえ?」
「……サボるってさ」
先ほど受信したメールの画面をクラスメイトへ差し出す。悪いが芹生に罪はない。こちらが止める暇もなくいつの間にかどこかに消えていたのだ。
「えーっ、デザインの下書き持ってるの四辻なのに! パネル進まねえじゃん」
「パネルの責任者引っ張ってこいよ。今週の四辻係だろ」
「だから、パネルの責任者が四辻だよ。あと今週は貴船」
「今日休んでんじゃん……」
間の悪い。責任者不在のパネル担当に少なからず同情しつつ、無言のまま携帯を閉じる。四辻の事情など知らない芹生としては呆れるしかない。今回の試験で、四辻の印象も少なからず良くなっていたというのに。
廊下に張り出された、それの結果を思い出す。予想していたよりずっと上の方に書かれていた名前に、思わず目を疑ったほどだ。
――結果として。四辻の順位は、前回より比べ四十番ほど上がった。
自分の時間を削って教えた甲斐はある。と言っても、午後の授業を自主的に潰して行った例の勉強会は、あれきりでなくなってしまったのでそれほど大袈裟なことではないのだけれど。
と、いうのも、……普段は大人しく欠席など滅多にしない生徒の無断欠席は、芹生が思っていた以上に大事だったらしい。
思い出すたび嫌になる。放課後、鞄を取りに教室へ戻った、そのタイミングが悪かったのかもしれない。運悪く担任に捕まり、その理由をそれはもうしつこく問われてしまったのだ。聞けば、家にまで連絡がいっていたというのだから堪らない。
結局、その場は適当に誤魔化して何とかなったものの、おかげでひどく苦い思いを味わうことになった。先に校門で待たせていた四辻も別件で教師に捕まり、反省文を書くはめになっていたというのだから、あの日はお互い厄日だったに違いない。
(次があるなら上手いこと仮病を使えるようになっておかないとなあ)
そもそもサボるなという話なのだけれど。
「あーもう、四辻のやつどこ行った!?」
「俺が知るはずないだろ。一条、お前なら知らね?」
「いや、さすがに判らないかな――というより、ごめん。俺そろそろ生徒会室に行かないと」
「あっ、そっか。悪ィな、引き止めて」
「こっちは大丈夫だから仕事、頑張れよー。……ついでに四辻見かけたら引っ張ったいてこっち戻らせてくれ!」
「うん、判った。手伝えなくて悪いな」
思ってもいないことをさらっと口にし、何か言われる前にさっさと教室を出る。廊下で作業中だったクラスメイトにも一声かけて手を振ると、そのまま背中を向けて逃げ出した。
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