凜としたその声を聞いたとき、一体、何の冗談かと耳を疑った。

『新入生代表、京極子鶴』

「はい」

 名前を呼ばれたその人物が、背筋をピンと伸ばし、壇上へと上がる。同姓同名の別人であってほしいという願いは、その瞬間、無惨にも砕け散った。
 ――もう何年前のことだったか。久しぶりに見る彼女は、相変わらず綺麗だった。背も随分と伸びた気がする。
 肩につくかつかないかの長さで切り揃えられた黒髪に、意思の強そうな瞳もあのときのまま。成長はしたものの雰囲気は変わらない、京極子鶴という少女。
 それは間違いなく、珂瑞の知っている女の子で。
 酷く、動揺した。感じるのは懐かしさよりも恐怖だ。そのときどこからか聞こえたガタン、というそれは、どうやら珂瑞が椅子から転げ落ちそうになった音らしい。

「……岩倉?」

 大丈夫か。隣に座っていた友人の声で、ハッと我に返る。機械のようなぎこちない動きで首をそちらに向けると、珂瑞の腕を掴む長岡が目に入った。
 倒れなかったのは、彼のおかげのようだ。

「長岡」

「……どうした?」

 心配そうな表情でこちらを見る長岡に、珂瑞はただ、「どうしよう」と呟いた。



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