「――いや、まあ自分から告白したわけじゃないから別に良いんだけどね」
あまりにフラれる一方なので、これはどうなのかと思っただけだ。普段ならそれこそ考えたこともないようなそれも、数が二桁に達してはさすがに思うところがある。
それとも。自分でも気づかないうちに彼女に言われたそれを、気にしていたということだろうか。もしくは彼女自身をか。
今までの元カノよりはっきりとした物言いであったし、気色が違っていたのも確かだけれど。
(……アホらし)
次から次へ浮かんでくる疑問に本気でバカらしくなって、九条は思わずため息を吐いた。考えたところできりがないし、何より既に別れてしまった相手のことなどもう判りようがない上、ただ振り回されて終わりだ。
「らしくないよなあ。そういう季節ってことかな」
「知らないわよ、そんなの。まあ、またすぐに出来るでしょ」
「や、しばらくはいいかな。一応は受験生だしね。それにもう卒業だし、できれば十一人目はいきたくない」
「ほほう、最後のが本音か」
じと目で見つめてくる橋本に、その日一番の笑顔で肯定を示す。橋本相手に今さら取り繕うだけ無駄だ。どうせ全部バレてるだろうし――なんて呑気に笑っていると、突然、真顔になった橋本が口を開く。
「……ねえ、九条」
「ん? 何?」
「あんたさ、誰か一人くらい本気になれるような子いないの?」
「は? いきなりどうした?」
「気になったのよ。その性格じゃモノにしようにも難しいのは判るけど」
「……はっきり言うよなあ。別にいないよ。そもそも片想いなんてものする性格じゃないでしょ、俺」
「そうだけど。ねえ、本当にこのままでいいの? 九条、あんたこれじゃあ一生、独り身かもよ」
「言われても」
というより、何で俺はこいつとこんな話してるんだか。
今さらだけれど、初めの話から随分と方向がズレたものだ。思い出すと急に面倒になり、それ以上は返さず九条は一方的に話を打ち切った。
床に落ちたまま忘れ去られていたクシャクシャのプリントを拾い上げ、無言でシワを延ばす。その間も、橋本は九条から視線を外そうとしない。
見ればそれは、変わらず真剣な表情で。
(……)
ゴミ同然のそれを紙飛行機に復元しながら、イタい視線に負けて口を開く。
「ところで俺からも一つ聞きたいんだけど」
「何?」
一応、それっぽく形にはなった歪な紙飛行機を、一部始終を見守っていた橋本の目線に持ち上げる。首を傾げる橋本に背中を向けて、換気中で全開の窓からそれを飛ばした。
外に出たことをしっかり確認して、振り返る。
「いくら賭けてんの?」
「卒業までに本命ができる≠ノ奮発して五千円」
表情を変えずにさらりと言ってのけた橋本は、やっぱり見た目と性格にギャップがあると思う。
九条が飛ばした紙飛行機はやはりうまく飛ぶことはなく、ただ下へ下へと落下していった。
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