とにもかくにもスピード解決、だろうか。いや、根本的なものは何一つ解決していないのだけれど――もう大丈夫だ。
「……ありがとう」
お礼の言葉は、存外すんなりと口に出来た。
「どういたしまして」
そういった葵も、安心したように笑った。
「――さて、すっきりしたなら、さっさと帰って寝るのね。明日もやることいっぱいなんでしょ、副寮長」
「言っておくけど、寮長副寮長でなくても女子代表はお前なんだからな。今日は俺らで回したけど、明日は出てこいよ」
「…………」
「おいこら待て、寝るな」
髪も濡れたままに、無言で布団に潜り込んだ葵から毛布を奪い取る。
悩み事には付き合ってくれる割に、その他のところでこうして面倒がるのだから、葵の境界線はいまいち判らない。
「今日はともかく、明日はさすがに変われないからな?」
「何よ、オリエンテーションの進行くらい、変わってくれたって良いじゃない」
「バカ言うな。男子と女子とじゃ微妙に規則が違うだろ。風呂なんかの決まりも」
「お風呂ね……考えたら男女が同じ寮っていう時点で結構な問題よね」
尤もな話だが、しかしそれを言い出すと第三が潰れる。
「……ああもう、やだやだ。人前に立つだなんて柄じゃないのに」
「三年は少ない上に女子は葵しかいないから仕方ない、諦めな」
「判ってるわよ、馬鹿」
先ほどとは逆転した立場に、思わず笑う。そっぽを向いたままの葵に毛布を掛けてやると、荷物をまとめて立ち上がった。
「ありがとな。そろそろ戻る。――おやすみ」
こちらを向くことなく、手だけをひらひらと振る葵の姿を確認して、電気を切る。そっとドアを閉めると、暗い廊下に反し気持ちは明るく、部屋へと戻っていった。
はずだったのだけれど。
その後、三十分もしないうちに、珂瑞は地に落ちたテンションでこの部屋のドアを叩くことになる。
[戻る]