そんなある日、三ヶ月ほど付き合った彼女にフラれた。

「別れてほしいな」

 隣を歩いていた彼女が立ち止まり、ねだるように言う。付き合い始めのころ、「手を繋ぎたいな」と請われたときと変わらないトーンだった。
 見れば、そこにあるのはいつもにこにこと笑っていた彼女の初めて見る真顔だ。驚くと同時、吐き出された言葉が聞き間違いでないことを知る。

「別れたい?」

「……うん、」

 聞き返す。やや間をあけて、しかししっかりと頷いた。たちの悪い冗談を言う子ではないから本気だろう。
 ならば断る理由もあるまい。

「わかった」

「うん、ありがと」

 薄情と言えるあっさりとした返事をさらりと流した彼女は、先ほどと表情を一変させ途端ににこにこと笑う。見慣れた笑顔だが、別れ話の直後だ。通常は見れるものではない。
 そんなに別れたかったのかね。胸に刺さるが後の祭りだ。理由がわからない以上、ここで縋ってもいずれ別れていただろう。
 さっさとこの場を去るべきか思案していれば、こちらが結論を出す前に彼女が動く。「じゃあね」と手を振りながらゆっくりとーー芹也からすればゆっくりと帰っていく。歩幅が違うのだから当然だと気づいたのは、残念なことにその後ろ姿を見たときだった。



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