或る微睡みの中の光景



「ん…」
 深夜、ふと刻阪は意識が覚醒した。
 眠りから覚めて、ぼんやりと傍にぬくもりがあるのを感じる。
「…神峰…」
 まぶたが開いて、すぐ目の前に神峰がすやすやと眠っているのが見えた。その寝顔のあどけなさに、知らず刻阪の顔が緩む。

(…ふふ、可愛い)
 いや、神峰はいつだって可愛いけど。
 でも、いつもの神峰の顔ともなんだか違う気がする。

 なんだろう…と神峰の顔を見つめていたが、やがてあることに気づく。
(…あ、シワか)
 刻阪は指先を伸ばして、眠る神峰の眉間にそっと触れた。

 大体、神峰の眉間にはシワが寄っている。
 他人の心の痛みに触れた時。次から次へとやってくる難題にぶつかる時。他人と関わろうとしてビビっている時。
 神峰の眉間に寄ったシワは、神峰がいつも何かと闘いながら日々を過ごしている証だ。

 けれど、こうして隣で眠っている今は。
(…安心してくれてるんだろうな)
 そう思って、刻阪は嬉しくなる。こんなに無防備な顔をしてくれるのは、自分の前でだけだ――なんて、独占したみたいな気分になる。

 愛しく思う気持ちそのままに、刻阪は神峰の頬を手のひらで包む。
「…んぅ…」
 すると、無意識に反応したのか、神峰が微かに息を漏らす。

 可愛いけど、起こすのも悪いな。刻阪は苦笑する。
 だけど、せめてこれだけさせて欲しい。

「ゆっくりおやすみ、神峰…」
 そっと眉間に唇で触れ、神峰を抱きしめ直す。
 そして、刻阪は再び眠りの中に吸い込まれていった。


 +


 あたたかいものが、触れる。
 それを意識の裏側で感じたかと思うと、やがて意識そのものが現実に引き上げられる。
「…っ…!」
 目を開いた途端、刻阪の整った顔が至近距離から飛び込んできて、神峰は焦った。

(…はー、おちつけ、落ち着け…)

 どきん、どきんと心臓が騒ぐのを、どうにか収める。
 いつの間に、こんなに近くになったのか。寝る前よりももっと、距離が狭い。
 今にも、唇が触れてしまいそうなほどに。

 だんだん落ち着いてくると、刻阪の顔がちゃんと見えてくる。
「…綺麗だなァ…」
 ため息のように、神峰は呟いた。
 いつも柔らかい表情を浮かべている刻阪だが、こうして静かに目を閉じていると、違う顔も見える気がする。

(睫毛、長いし…鼻とか口とか、スッてしてて…形、スゲェ綺麗だし)

 思えば、近くからこんなにじっくりと刻阪の顔を眺めた事はなかった。
 神峰にとって、人を見ることは心を見ることとセットだ。特に刻阪の心は色んな意味で見たくなかったから、意図的に「見る」ことを避けていたところがある。
(だって、恥ずかしいだろ…!)
 だから、心もすやすやと眠っている今は、刻阪の顔をつぶさに見つめる貴重な機会と言えた。
 
 ―――本当に、見れば見るほど、カッコいい。

 不意にたまらなくなって、神峰は目を外す。こんなにカッコイイ奴と付き合ってるんだと思うと、どうにも心がむずがゆくなったのだ。
 そのまま、神峰は刻阪の胸に顔を埋める。
 すると、全身を刻阪のあたたかさが包んでくれて、今度は安心感が込み上げてきた。

 刻阪は、いつだって自分の傍にいてくれる。
 その事が、どんなに幸せか。どんなに神峰に力を与えてくれる事か。

「…ホント、幸せだ、オレ…」

 しがみついた温もりが心地よくて、再び微睡みに誘われる。
 こんな時間が、いつまでも続けばいいのにな――ぼんやりと想いながら、神峰もまた、眠りに落ちていった。






end.


+ + + + +

布団の中で考えたネタ。
眉間のシワについては某botさんから着想を得ました。ありがとうございます。

Up Date→'14/2/28

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