スパーンスパーンと
潔い音が部屋に轟く。木霊する。独特の木造の匂いに包まれて、私はその人に会った。
「土方先輩?」
そういえば生徒会には入ったものの、まだ会った事のない人だった。
鬼の副会長。土方十四郎。
どんな人なんだろうと気になっていたところで、お兄ちゃんから情報入手。
「あー今日剣道部のヘルプ頼まれてんだっけか、」
私とお兄ちゃんしかいない生徒会室でだらだらと午後を過ごしていると、ぱらぱら雑誌をめくりながらぽつりと呟いた。
「剣道部?」
「あーお前知らねえか。銀時たまにヘルプで呼ばれんだよ。土方に」
突然出てきたその人の名前にわたしが目をぱちくりさせていると、兄ちゃんはめんどくさそうに溜め息をついた。おうっなんだそのすごい人を馬鹿にしたような目は。
「土方先輩って、あの、副会長の土方先輩?」
「あいつ剣道部の部長やってんだよ」
「かけもちってこと?」
「そ」
で、たまに俺とか銀時とかがヘルプで駆り出される、とでっかいあくびをしながらまた雑誌に視線を戻した。
土方先輩達の代は土方先輩しかいないらしく、新入生の歓迎の時なんかが人手不足になるらしい。
坂田先輩、剣道出来るんだ。
胴着の坂田先輩。あー見てみたいなあと思う。まあ当然の思考だと思う。
そのままかばんを引っ付かんで、私は武道館はどこだっけな、と試行錯誤。
「どこいくんだよ」
「課外活動してくるね」
「ちょ、」
兄ちゃんに捕まえられる前にばたん!と生徒会室の扉を閉めた。兄ちゃん、そろそろ妹離れしてくれてもいいんじゃないかな。
さてさて。わたし今すっごいどきどきしてるぞ。
鬼の副会長、土方先輩に
白夜叉、坂田先輩。
私は武道館へ、駆け出した。
そして冒頭に至る。
想像していた以上に、白熱した闘いをしていた。絶える事のない打ち込む音に、その場にいた全員が息を呑む。誰も声を発さない。発せない。私はその二人の無駄の無い動きに、魅せられていた。
すごい、
そんな安直な感想しか浮かばなかったけれど、私はいまとてつもなく感動している。こんな無駄の無い動きをする人達を、見たことがなかった。
そして闘いも終わる。
坂田先輩が一瞬の隙をついて一本とった。ぱちぱちと周りからは拍手が沸き起こって、わたしは拍手も出来ないほどに見入ってしまって。面をとった坂田先輩がふう、と息をついて、こちらを向いてへらりと笑う。ひらひらと手を振られて、慌てて私はぺこりとお辞儀をした。
気付いてたんだ。先輩。
のろのろと歩いて隣のベンチにどさりと座ったのは土方先輩。面をとってぱさりと綺麗な黒髪が漏れる。
これが土方先輩。
予想以上に生徒会メンバーにしてはまともっぽい人だった。
「名前ーそこのペットボトル取ってくんねえ?」
「あっはーい」
こちらものろのろと歩いてきたので私はそこに置いてあったペットボトルを手に取る。
大きく"銀さん用"と書いてあってくすりと笑ってしまった。
「お疲れさまでした!」
「おーサンキュ」
坂田先輩が笑って私の頭を撫でた。そして土方先輩の方を見てにやりと笑う。
「大串くーん今日いちご牛乳奢りで」
「てめっ」
「これで何勝でしたっけ?しっかりしろよ部・長」
「だァァァァ!!わかったよ!!奢りゃいんだろ!!」
仲良いんだなあーとか思いながら見つめてると私の方を向いて、けぇるぞーとひらひら手を振って着替えに行く坂田先輩。
その背中を見つめていると、土方先輩に話しかけられた。
「あんたが高杉の妹か」
「あっはい、はじめまして!高杉名前です」
「おう。知ってると思うが副会長の土方だ。よろしくな」
「よろしくお願いします!」
笑うとかっこいい。いや笑わなくても十分イケメンなんだけど。そんな所も坂田先輩に何処と無く似ているな、と思った。自然と笑みが溢れる。
そんな私の顔をまじまじと見て、一人で納得したようにああ、と呟いた。
私は頭に疑問符。
「あの野郎が本気出すなんて珍しい事もあるもんだと思ったら」
「??」
「お前がいたからか」
またまた私の頭は疑問符で埋めつくされる。何の話だろう。私の顔がよっぽど間抜け面だったのか土方先輩は吹き出して笑った。女子に対して失礼じゃないのか。ほんと。
一頻り笑った土方先輩はすまん、と謝りながらいい笑顔をこちらに向ける。
「たまに野郎とか高杉とかヘルプ呼ぶから、見にこいよ」
「いいんですか!」
「入部も歓迎だけどな」
「それは遠慮しておきます」
間髪入れずににっこりと笑って答えれば、土方先輩は苦笑して。
着替えの済んだ坂田先輩と共に武道館から帰路につく。土方先輩はまだ新入生の勧誘があるらしいのでお先に失礼させてもらった。
お兄ちゃんは置いてっていいか。
ぱたぱたと坂田先輩の元まで駆けていくと、ポカリを飲んでた先輩が気付いて、ふわっと笑って手を振られた。おおっこれはまた新しいパターンだぞ。
客観的に見ても本当に、坂田先輩はかっこいい。
なせ客観的かというと主観的に見たら坂田先輩を直視出来なくなるからです。
「お疲れさまでした!」
「まじで疲れたー…」
「土方先輩1人残して来ちゃって大丈夫なんですか?」
ああ、あいつね、大丈夫。
そう言う先輩はだるそうに目を細める。
「あいつ教えんのとかうめーから。勧誘は十八番ーむしろ俺がいた方が邪魔とゆうか」
遠くを見詰めて呟く坂田先輩は、きっとなんだかんだ喧嘩ばっかしててもお互いがお互いを認めてるんだろうと思った。
そんな関係がいいな、と思う。
「名前は?お前なんかやってたろ」
ぴくり、と一瞬動きが止まる。
「何でですか」
「体みりゃわかる」
私は動揺を悟られないようにこりと笑う。
「いえ、何も」
誰しも、心の奥底に何かしら秘密を抱えている。
そこには一線があり、誰も踏み込めない領域があり、
その笑顔には誰もが言葉を発せなくなる程の冷酷さが、含まれていた。
「、」
「帰りましょ、先輩」
誰しも過去があり、
過去は伏線となり、
生徒会の関係は、本当はもっとややこしいものなのかもしれない
生徒会長は密かに溜め息をつく。
「…めんどくせー事は嫌いなんだよ」
その伏線は何をどうねじ曲げていくのだろうか。