「駄目に決まってんだろ馬鹿かお前は」


呆れたような声でお兄ちゃんはこちらを睨む。そんな風に睨んだって効果ないもん。
ちなみに坂田先輩はお兄ちゃんに一発殴られてちょっと大人しくしてる。さりげなく私のカーディガンの裾をつかんでるのが可愛くて。思わず胸がきゅんとした。


「なんでよ」
「お前生徒会について聞いたんだろ?あぶねえんだよ」
「知ってるよそんなの」
「だったら…」
「でも、」


兄ちゃんの目を見据える。兄ちゃんが私の事を本当に心配してくれてるのは痛いほど分かる。それでも。


「だって兄ちゃんが護ってくれるんでしょう」


私は自分の心が震えるのが分かった。なんだろう。わたし、結構楽しんでるのかもしれない。つまらない青春になんて興味はない。どうせならどきどきしていたい。渦中でどたばたしていたい。

兄ちゃんは目を丸くして、そして諦めたように笑った。
約束したのは兄ちゃんだもん。あの日、お父さんとお母さんが死んだあの日。これからは俺がお前を守るって言ったのは兄ちゃんだもん。


「しゃーねーなァ」


頭を掻きながら私の方へ来て、ぽんぽんと頭を撫でられて。私は嬉しさのあまり兄ちゃんに抱きつきそうになる。

予令が鳴った。

私は生徒会役員になりました。兄ちゃんと坂田先輩と、これからどたばたやっていこうと思います。

兄ちゃんは弁当の食べ残しを食べると言って生徒会室に残った(授業でろよ馬鹿兄貴…)


生徒会室をでるとここの廊下は人気が無くてとても静かで。
坂田先輩が不意にぐいっと私の腕をつかむ。


「さ…坂田先輩?」
「…これからすげえ危険な事とか、あると思う」


わたしの目線までかがんで、いつになく真剣な眼差しで私を見据える。鼓動がうるさい程どきどきと鳴り響く。どうか、どうか先輩に聞こえていませんように。そんな事を願いながら。


「は、い」
「お前の兄ちゃんも、俺も、全力で護ってやっから」
「!…」
「安心しろ」


そしていつものように、ゆるくへらりと笑う。くしゃりと撫でられた髪が、揺れた。先輩の手は大きくて、骨張った細い指が、男の人なんだと私に自覚させる。泣きそうになったのは安堵したのと嬉しいのとで。

「ようこそ。これからよろしくな」

先輩の笑顔にはたくさんの種類がある。でも私に向けられる物は、全部全部私を幸せにしてくれるのだ。
きゅっと締め付けられるような感覚に、私はぎゅっとカーディガンの裾を握りしめた。

本当は気付いて欲しいと思った。先輩に触れるたび、私の鼓動がどれだけ高鳴るのかも、先輩の事を知りたいと思う自分のこの気持ちも。

臆病な私がいつも思っていること。
伝えられない想いは日々募っていくばかり。

それでも私は今この瞬間が、先輩の近くにいられる事が、それだけの事が、
途方もなく幸せなんです。

馬鹿みたいな片思い。


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


隣を歩く先輩との身長差も、くるくるの天然パーマも、死んだ魚みたいな目も、やる気のないゆるい感じも、だるだるのカーディガンも。

探せばきりがないくらい、私はいつの間にか先輩の事が好きになっていたらしい。


「重症だなあ…」
「ん?何か言ったかー」
「いーえ、何にもー」



とりあえず今はこの関係を壊したくない。そう思う。




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