校門の前まで連れてきてもらえたおかげで、滑り込みぎりぎりセーフ。私はふかふかの椅子に座る。あったかい。すごいな、中学なんかさっむい体育館にパイプ椅子だったのに。さすが金持ち学校。
…さっきの人。
すぐわかるって言っていたけれど、見渡す限り見分けやすいはずのあの銀色は見えない。あーすげ、みつあみとおかっぱのオンパレード。うぇ、と変なうめき声が漏れた。
この状況じゃ、兄ちゃんも浮いてるだろうし、私も、
さっきから先生達の目がなんか冷たい。仕方ないじゃん。生まれつきだってば。
どこでどう間違ったのか、兄ちゃんとは正反対のぐしゃぐしゃのゆるいウェーブに、色素の薄い髪色。を、短く切ってるから違反じゃないはずなんだけど。小さく溜め息をついた。そして入学式が始まる。
校長やら理事長やらのつまらないぐだぐだな話にふわ、とあくびが漏れた。
そして口が塞がらなくなる。
「生徒会長、祝辞…」
読み上げる先生の声があからさまにしりすぼみになっていく。先生達も気まずそうに目を逸らす。
私はなんだかすごく、自分の気分が高揚してくのがわかって。
なんてこった。
「どーも、新入生の皆さん入学おめでとーございます」
その人は真っ直ぐ私の方を見て、あの意地悪そうな笑みを浮かべながら、
「生徒会長の坂田銀時でーす。以後よろしく」
そう名乗って、私にひらひら手を振った。やられた。と思った。
再登場の方法うますぎやしないか。
……あれ?
「!!っ兄ちゃ…!」
がたりと立ち上がりかけて一斉に見られて私は慌ててもう一回座る。うわっ恥ずかしい。
それに気付いた(いつ来たんだか、)兄ちゃんはわたしのほうをチラリと見て鼻で笑った。
そうだよ。最初からおかしいじゃん。この学校で、兄ちゃんみたいな人間が許されるわけなかった。
自由奔放で、髪の毛ものびっぱなし。前ボタン閉めないし、中には赤Tシャツ着てるし。
生徒会役員席に悠々と座る兄ちゃん。ぜんぶ納得いった。
…生徒会ってゆうのは問題児の集まりなんだろうか。
何もわからないままあの不敵な笑みと共に会長挨拶は終わる。私はどきどきしていた。非日常。それがここにはある気がしたのだ。
入学式終わりと共に一息つくと、私は強面の女の先生に呼ばれる。すっかり忘れていたけれどつまるところ私も問題児扱いされそうな要素満載なわけでして。
「あなた、その髪の毛は何?」
「地毛です」
「うちの学校はパーマもカラーも禁止よ。わかってるの?」
「天然なんですけど」
「黒染めくらいは出来たんじゃない?」
「しようとしたけど兄ちゃんに止められました」
「は……?」
「"あんな学校の為にお前の綺麗な色が黒くなんのなんてもったいねーよ"だそうです」
「っあなた!!クラスと名前を言いなさい!!」
ほんとに止められたんだもん。私は千円した黒染め溶液を泣く泣く手離した(だって兄ちゃんに綺麗なんて言われたの初めてだったんだもん)。私もいいブラコンである。
「高杉です」
その言葉にぴたりと先生の動きが止まる。
「クラスはまだわかりません。名前は、高杉名前です」
先生の顔がみるみる青くなる。なんかまずいこと言ったかな?わたし。
するとぽんっと軽く頭を叩かれたと思ったらくしゃくしゃと撫でられて、振り返ると、
「あー誰かに似てると思ってたら、高杉の妹か」
あの人がいた。
「さ、かた先輩…!」
「びっくりした?」
「びっくりどころじゃないですよ!驚きが三乗くらいして自分の中で収集がつかないです!」
「ははは大成功」
陽気に笑う坂田先輩に、私も気が抜けて笑ってしまう。
先輩はくるりと青ざめてる先生の方を向いて、黒い笑みを浮かべた(この人の笑い方はパターンがたくさんあるらしい)
「せんせー」
「…は、はい」
「この子怒るんだったら俺もだめなんですかねー天パ」
「いえっ…」
「じゃあやめてもらえます?」
にっこり笑った坂田先輩は、とりあえず悪魔みたいだった。けど。私の事庇ってくれたんだなあ、と。舞い上がってしまう。
この人なんでこんなにかっこいいんだろう。
先生は逃げるように走って行った。ざまーみろ。天パの祟りだばーか。
「ありがとうございました」
「んーどったまして」
「でも兄ちゃんが生徒会だったなんてなあ」
「知らんかった?」
「まあ自由すぎるなあとは思ってたんですけど…」
だって兄ちゃん、聞いても学校の事全然教えてくれないし。
「でもそのわりに受験の時自分の学校おすんですよね。なんなんだろ」
「…虫よけじゃねーの、それ」
「?」
「…いや何でもない」
坂田先輩がにやにやと遠くの方をみつめる。あいつシスコンだったんだなァとか言ってるからお兄ちゃんの事だろうけど。
「名前、つったっけ」
名前、を呼ばれた。
だけで私の胸はどきんと跳ねる。うわ、名前呼ばれちゃったよ!どこぞの恋するときめきメモリアルですかこれ。
「はい、改めまして、高杉名前です」
「改めまして。俺は坂田な。生徒会長」
「兄ちゃんの事よろしくお願いしますね」
「おー」
でもやっぱり、わたしはこの坂田先輩の優しい笑みが一番好きかもしれない。
「まー天パ同士、仲良くやってこーや」
くしゃりと頭を撫でる手は大きくて、さらに私をどきどきさせて。反則だよなあ、かっこよすぎるよ。先輩。
「こちらこそよろしくお願いします!」