みなさん。人のコンプレックスを笑うことなかれ、ですよ。

自分の意思に関係無く生まれ持ってきてしまった物を、馬鹿にしたりとかしないで下さい。


つまり天パを馬鹿にすんな。





「お兄ちゃん!!もーいい加減おきて!!」

平穏無事な朝だった。いつものように起きて、朝食をつくって、バカ面して寝てる兄貴…もとい高杉晋助を叩き起こして。

でも違う事が1つだけ。

リビングの奥にちょこんとたてられている2つの写真にそっと手をあわせた。


「お父さんお母さん。今日から兄ちゃんと一緒の高校に通うことになりました」


両親の顔を見つめて、ふふっと微笑んだ。両親は数年前に事故で他界してしまって、それからは私とお兄ちゃんの二人で暮らしている。


「あ、おはよー兄ちゃん」
「……はよ」

相変わらず朝が弱い兄にやや苦笑混じりの溜め息を漏らす。兄は自由奔放を絵にかいたような人なので遅刻早退無断欠席なんて日常茶飯事だが、私は登校初日から遅れるわけにはいかない。兄ちゃんの分の朝食と弁当を机にことりと置いて、私は早々にかばんを掴んだ。

「兄ちゃん、弁当は机の上だからね!」
「おま…早くね?」
「今日入学式!」
「あー…まて」

一緒にいく、と頭を掻きながら言う兄に「は!?」と絶叫。

「ありえない…!兄ちゃん準備まったく出来てないじゃん」
「妹の入学式くらい出なきゃ駄目だろ」

一方的に宣言してばさばさと着替え始める。ほんとに意味がわからない。はあーと嘆息して私は再度ソファに腰を沈めた。

「準備早くしてよー」
「おー」

そこから暇でうとうとし出して、気付けば30分たっていた。


……遅刻だ。


「お兄ちゃんの馬鹿野郎おおおおおおおお!!」


そんな風にして私はそれでも準備の終えない(頭おかしいんじゃないか)馬鹿兄貴を置いて家を飛び出したのであった。
















不運な日にはトラブルが付き物で、ある。

舞い上がる花びらに目を細めて、風を切りながら前へ前へと走る。



春が、降ってきた。




「!?」
「あっ人っ…!」


ぶつかる!!

回避しようとしても時既に遅し。目をぎゅっとつむると同時にがつんと鈍い痛みと共にわたしは浮遊感に襲われる。

あれ?なんで浮遊感?

ゆっくりと目を開くと、誰かを下敷きにして私は地面に座っていた。


「いってェ…アンタ、大丈夫だった?」


声は上から。がばっと立ち上がると、さっき降ってきた人が私を支えるように下に座っていた。つまりですね、説明しにくいな。下敷きになってくれた人の膝の上に私が座ってるみたいな、


「っごめんなさい!!」


悠長に説明なんてしてる暇なかった。咄嗟に立ち上がって謝ると、その人はにっこり笑って立ち上がった。ぱんぱん服のほこりを払う姿が様になってる。つまるところ、イケメン。

「いや悪いのこっちだから、」
「そちらこそ大丈夫でした?すみません庇ってもらっちゃったみたいで…」

「……あれ、あんたその制服」


言われてはた、と気付く。その人が着ている制服は(着崩してはいるが、)紛れもなく兄と同じ制服だった。

でも、おかしいな。

うちの学校はとんでもなくエリート高で(そりゃあなんでうちの馬鹿兄貴が受かったのってくらい)とんでもなく校則が厳しい。女子だったら黒髪にみつあみ、スカート丈は膝上禁止などなど。男子はカラーシャツは着ちゃだめだし(あの馬鹿は着てるけど)髪の毛も耳にかかっちゃいけないとか(あの馬鹿はのびっぱだけと)それはもう厳重に管理されているのだ。


着崩された制服。それに、この人。
銀色に光るくるっくるの天然パーマ。


「ありゃ、新入生?そりゃあ大変だな」


とか考えてるうちに、ひょいっと、また自分の体が浮遊感に襲われて。


お姫さまだっこ……!!!


とりあえず自分の顔がみるみる熱くなる。脳が事態をのみこめてない。パニック。え、ちょ、ちょ、ちょっとまった!


「俺も近道途中だったんだわ、送ってく」
「え、あ、え?」


しっかり掴まってな、と爽やかな笑顔で言われて軽々と走りだす。いや予想以上に恥ずかしい!いやいやまじで!ほんとに!!ぎゃああああああああ

今なら羞恥心で死ねる。気がした。



「あのっ…!」
「んー?」
「名前、教えて頂けませんかっ…!」


見た感じ(十中八九)先輩だろうと思っているせいか自然と滑り出てくる言葉は敬語になる。

その人は口端をあげてにやりと笑った。その笑った顔に、どきんと高鳴るわたしの胸。吊り橋効果ってやつですかね。これ。


「ちょっとすりゃすぐわかっから。ナイショ」



しいっと唇に人差し指をあてて、意地の悪い悪戯っ子のような笑顔に、やっぱり私の胸はどきどきどきどきと、鳴ったまま。





こうしてわたしは、私の高校生活を、人生そのものを360度通り越して540度くらい変えることになるこの男と、出会ったのです。


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