木枯らしがびゅうっと横を通り抜けて、わたしは思わず身震いをする。はあっと息を吐くとうっすら白く浮かび上がって。
枯葉が舞う、秋になった。


坂田くんとわたし。


「そーいえばさあ」
「んー?」

隣を歩く坂田くんを見上げると、丁度ぶるりと坂田くんは身震いした所で、思わずぷっと吹き出してしまった。坂田くんは不服そうに見んな、と私の顔面をぺちりと叩いて、笑う。

「んで?」
「ずっと気になってたんだけど、坂田くんはいつからわたしの事好きだったの?」
「!!」

ぐはあ、と腹をおさえる坂田くん。別にボディーブローとかしたわけじゃないのに。精神的恥ずかしさかもしれない。わたしもこの質問にはすごく勇気がいった。少なくともひとつ分季節をまたぐくらいには。

「坂田くーん」
「…銀さん恥ずかしい」
「えー?」

いまさら恥ずかしいもなにもないでしょーと言うと、それもそーだ、とおどけてみせた。彼なりの照れかくし。

「合格発表ん時」
「…うっそ」

そんな前から。坂田くんはわたしの事を見ていてくれた。
それが信じられなくて、わたしはぽかんと坂田くんの顔を凝視する。

「あん時、俺この学校最後の模試でもD判定で、絶望的すぎてもう本当神様仏様なんでもいいから合格さしてくれって勢いで、発表見に行ったわけよ」

懐かしそうに目を細めて遠くを見つめる。確かあの日はとても綺麗な青空で、雲一つ無い晴天だった。

「んでなかなか自分の番号見れないでいたら横から声がして、」
「うん」
「2人女子がいて、友達が受かってるのみて喜んで大泣きしてる子がいてさ、」
「あ、」

知ってる。わたしはその子達を、知っていた。

「友達と二人で受かったんだと思って、羨ましいとか思ってたらその大泣きしてる方の子、まだ自分の番号見てなかったらしくて」

散々友達に馬鹿にされていた。自分が受かってるか確認する前に人の合格で喜ぶなって。

「スゲェと思ったんだよ。俺なんか余裕もなくて自分の事で精一杯だったのに、この子は他人の事で、自分の事二の次で泣くほど喜べるんだなァって」

坂田くんが優しく笑って、くしゃくしゃとわたしの頭をなでる。その心地よさに、私はぎゅうっと目を細めた。

「それが出会い」

わたしの話。結局わたしも坂田くんも受かっていたから、今こうしていられるんだけれど。

「気付けばこんな好きんなってた」
「えへへ」
「付き合うとか、あの頃は想像もしてなかったなァ」

神様仏様に感謝しないとなあ。わたしと彼を出会わせてくれたこと。わたしと彼の人生を交えてくれたこと。

「人生って何がおこるかわかんないね」
「そーだなァ」
「わたしは、」

坂田くんの手に自分の手を重ねて、ぎゅうっと握りしめる。あたたかい。人のぬくもりが、伝わってくる。

「坂田くんと出会えて、本当によかった」

照れて笑いながら赤くなる顔を伏せてごまかすと、坂田くんは私の額にちゅうっとキスをした。

「俺もだ」

手を繋ぎながら帰る帰り道も、ケンカもキスも、恋人も、君がはじめて。たくさんのはじめてに、わたしは戸惑っていたけれど、それでも坂田くんはいつでも笑いながら、ゆっくり私の手をひいて、導いてくれた。

人を愛することは、こんなにも愛しくて。
わたしは相変わらず、坂田くんの事がすき。



でも着々と、別れは近付いていた。


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