私はそれを遠目から眺めていた。ぼうっと、手に抱えたごみ箱の存在を忘れたようだった。きっとほんの数秒の出来事。それでもずっとずっと、長く感じた。

それは坂田くんが違うクラスの女の子から告白されてる所でした。


坂田くんとわたし。


重たい足取りでずるずるとごみ箱をひきずりながら体育館裏の焼却炉までごみを捨てにいく。

あー…あんなことあるんだなあ…

体育館裏に呼び出し。告白。そう坂田くんはやっぱり女子からもてる。なまじかっこいいわけではない。端正な顔立ちに似合わずゆるゆるした感じとか、坂田くんのまわりはいつも人で溢れてて。
それだけにすこし、こたえた。

「どんだけ好きなの…わたし」
「誰を?」

びくっと過剰反応する体を声の方に向けると、きょとんとする坂田くんがいた。

「さ…坂田くん…」
「……なに、そんな泣きそうな顔してんの」
「っ……」

気付けばぽろりと、瞳から涙がこぼれおちた。どろどろの感情が、わたしの中で溢れる。知られたく、ない。この汚い感情を、彼には知られたくないと、思った。止めどなく涙はぽろぽろとこぼれ落ちて、私は私の汚さを再確認する。

「何でも、ない」
「いや何でもなくはねェだろ」
「何でもないからっ…」

気付けば伸ばされた手を、振り払っていた。ぱん、と渇いた音が静けさに包まれた空間に木霊する。

「っ……ごめ、」

悲しそうに顔を歪める、坂田くん。止まらない涙。わたし。わたしは、何を護りたかったんだろう。坂田くんにこんな顔させて、一体なにがしたかったのか、
わからない。わからないわからないよ、坂田くん。

「…言ってくんなきゃ、わかんねェよ、」
その言葉でわたしの中のすべてが決壊した。
もういい。すべてをぶちまけて、嫌いになってくれたって、かまわない。

「っだって!!坂田くんはこんなかっこよくて、女子からもててっ…それでいてずっとわたしの事好きでいてくれる確証なんか…ない…っ!!」
「え……」
「坂田くんに出会って…坂田くんのことどんどん好きになってくたびに…っわたしはどんどん欲深くなってく…っ」

不安に駈られたり、嫉妬したり、そんな黒い感情に苛まれて、好きでいてほしい。愛してほしい。そんな感情ばっかり膨れていく自分がいて。

「坂田くんのことが…っすきなの」

どうしようもないくらい、わたしは彼に惚れている事を自覚する。じわりと滲んだ視界で坂田くんをみると、がらんとごみ箱が落ちて、
わたしはぎゅうっと坂田くんに抱き締められた。

「そんなことかー」
「っ!そんなことって」
「よかった」

ぎゅうっと更に抱き締める力を強めて、坂田くんは言いはなつ。

「嫌われたかと、思った」

はあっとため息をついて、笑う坂田くんに、今度は私がきょとんとしてしまった。

「そんなん、いつでも思ってるよ。お前は知らねェかもしんねーけど、もうずっと前。おんなじクラスで隣の席んなった時なんか奇跡だと思ったね」
「…うっそお」
「嘘じゃねーよ。いつでも他の男にとられんじゃねーかってヒヤヒヤしてる。こんな、」

ちゅう、と
頬に感じる、坂田くんの唇の感触。

「こんな可愛い人、そうそういねーよ?」

かあっと自分の顔が真っ赤になるのがわかる。こうゆうことを、なんでさらっと言っちゃうかな。坂田くんは。

「だから安心した、妬いてるとかむしろスゲェ嬉しいとゆうか、」
「ふ…ふふふ」
「あー…はずかし」
「ねーはずかし」

そのまま二人で笑いながら、手を繋いで帰った。ごみ捨てが遅いってこっぴどく叱られたけど、そんなの気にならないくらい私は幸せだった。

坂田くん。わたしは坂田くんがすき。

それはきっと、いつになっても変わらないとおもう。何があっても、きっとわたしは坂田くんが好きだとおもう。

この日、わたしたちは付き合いはじめてから初めての、喧嘩をしました。



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