「おーお前ら三人揃ってこんな所で何やってんの」
聞き慣れた声に振り返ると、そこにはやっぱり、先生がいた。
「銀ちゃん先生っ!」
「…坂田」
「今帰り?ああそーかさっき提出物出してたもんなァ……あれ?そっち二人方向ちがくね?あーもう暗いし送ってやってんの?」
そこまで一気にまくし立てて、呆気にとられている二人を横目でちらりと見ながら、先生はいきなり、わたしの腕をぐいっと引っ張った。
「わっ…せんせ、」
「ここからは俺が送ってってやるよ」
はっとして訝しげな目を向ける総悟くんに、先生はにやりと笑ってじゃー気ィつけて帰れよーとひらひらあいてる方の手を振って、私を引き寄せた。
慌てて私も歩き出して、先生の少し早い歩調に合わせる。
振り向いて少し大きめに叫んだ。
「総悟くん、土方くん、ありがとうっ!」
転ばないようにすぐ前を向いて、先生の顔を見上げる。
先生、肌が熱いです。
まだ冬服でよかった。私の高すぎる体温も、波打つ脈拍も、鼓動も、ぜんぶ伝わってしまいそうだったから。
「…あぶねえ所だったな」
「ねー…」
「早く出てきてよかった」
ぽつりとこぼれたその言葉に、え?と先生の顔を見ると、しまったと罰の悪そうな顔をしていた。
わざわざ、早く切り上げてきてくれたんだ。先生。
「まァ…残りの仕事は持ち帰りって事で、」
ふい、と顔を背けて持っている鞄をぶらぶらと揺らした。
やばい。嬉しい。自分の顔がこれでもかとゆう位緩むのがわかる。
「銀ちゃん先生ー」
「…んだ」
「ありがとー」
ひかれていた腕はいつの間にか繋がれていて、手のひらから手のひらへ直に伝わる熱は温かかった。
端から見たら恋人に見えないかなあ、なんて。
一番考えてはいけないことを、わたしはその時思ってしまった。
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「…いいのか?」
名前と坂田が歩いていった方を鋭い眼光で睨み付けた。熊でも飛び上がりそうだ。
チッと舌打ちをして方向転換をする。
名前の腕をとった時のあの顔。まざまざと思い出せるあの顔。
「今の所は、まだいいんでさァ」
今の所ねえ…と土方が溜め息をつくのが聞こえたが、聞こえないふりをした。
「…余裕かよ」
多分坂田は、俺の名前への想いに気付いてやがる。気付いてて、あの余裕。
「上等じゃねェか」
自分の中で大きくなる鼓動を、感じながら。
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実の所、余裕なんてさらさら無かった。
職員室から名前が出ていく時、沖田の視線に気付いた。
アイツは十中八九、名前の事が好きだ。
これからアイツらは多分、一緒に帰るんだろう、とか
考えた瞬間に体が勝手に動いていた。考えるより先に、本能が動いた。
建前とか、言い訳とか、そんな事考えてる余裕もなく、いつもの帰りのルートを急いだ。
アイツらん所に着いて、名前の俺を見た瞬間のほっとしたような顔を見て、はじめて建前が生まれた。
それくらい、あん時の俺には余裕が無かった。
あー、恥ずかしい。
「銀ちゃん先生ー?」
「んだ」
「ありがとー」
そういって笑う彼女に、俺は予想外にのめりこんでしまっているようだった。溺れる。
ああ、俺は名前が、
「愛とか、感じる時がくるたァな…」
呟いた言葉は夜闇に消えていった。誰の元にも届かず。
「あれ、3Zの坂田じゃね?」
「隣、銀高の生徒?」
交 差 す る 想 い
(手放す気は、ない)
天気予報は嵐を告げた