「土方くーん」

「待て」

「おーい」

「待て」

「まだー?」

「ちょっと待ってくれ!」


目の前にいる土方くんは今、物凄い腕捌きで数学の答えを書き写していた。すごい早さである。だけどこんな早く書けるなら昨日のうちにやっとけばいいのに。

数学係である私は数学の提出ノートを先生の所まで持っていかなければならないので、土方くん待ちだ。
教室にはもうほとんど人は残っていない。


「遅いですぜィ土方さーん」


そう言って書いた所を上から消していく総悟くん。彼も数学係である。
お前が邪魔するからだろーがァァァ!!と言って総悟くんに左フックをかまそうとしてひょいと避けられ空振りに終わった。私はそれを見てつい笑ってしまう。

そんなのの繰り返しであった。

「名前は女子担当なんだから別に帰ってもいいんですぜ?」

そう言って椅子をがたがた揺らしながら見上げて首を傾げる総悟くん。可愛いなーあーこの位可愛くなりたい。


「いーよ別に、今日暇だし」

「そうですかィ。ホラ土方さんが早く終わらせないからー」

「じゃあ邪魔してんじゃねェよ!!」

「仲いいんだねえ」

「「よくない」」


あ、ハモったーと言うと、二人は顔を見合せてチッと舌打ちした。それを見てまたくすくす笑ってしまう。



ようやく土方くんの宿題も終わって、職員室まで提出しにいくと、総悟くんが女子の分も半分持ってくれた。優しいなあと呟くと、彼は歯並びの良い口を開けて、優しいのは名前ですぜ、と言って笑った。



数学の先生に提出分を渡して、職員室を出るとき、銀ちゃん先生と目が合った。口パクで「名前ー」と名前を呼ばれて、私はつい笑ってしまう。
こんな些細な事が、嬉しかった。
小さく手をふりかえすと、先生も笑って手を振ってくれた。


「やっぱり、名前の好きな奴は坂田だろィ」


職員室を出て、廊下で総悟くんが放つ。言葉。私はその言葉に硬直する。


「なんで、」

「見てりゃあわかりやす」


そう言って振り向いた総悟くんは、何とも言えない、泣きそうな顔をしていた。何で、総悟くんがそんな顔するの。


そんな総悟くんの顔から目を離せないでいると、総悟くんは土方くんの姿を見つけて、いつもの顔に戻った。


「大丈夫でィ、誰にも言わねェよ」

「総悟くん、」

「早くかえりましょうぜ」


そう言って不意に、私の手首を掴んで、走り出した。土方くんの所まで。


「帰りやしょう」

「待たせて悪かったな」


そう言ってすまなそうな顔をする土方くんに、私は慌てて手を振った。


「ううんっ別に大丈夫だよ」

「名前ー早くー」

「はいはーい」


もう下駄箱の方まで走っていってしまった総悟くんに大きな声で返事をする。その様子をみて土方くんは


「総悟は、下の名前で呼ぶんだな」

「へ?うん」

「お前ら付き合ってんのか?」


真面目な顔で聞いてくる土方くんに、私は思わず吹き出して、あり得ない!と肩を叩いた。


「好きなひと、いるし」


ちらりと足元を見る。私は先生が。好きだから。


「…そーか」

「あ、土方くんも名前でいいよ!」

「了解」


そう言って笑う土方くんを見て、土方くんは笑ってた方がかっこいいなあと思った。

もう一度総悟くんに呼ばれて、私達は慌てて帰路についた。














「…少なくとも、総悟の方はあり得なくねェんじゃねーのかな」


土方くんの呟きなど、知らずに。











視 線 の 先 に は




総悟くんと土方くんと私
下駄箱を出て、三人で帰路についた


「名前はどこ住みですかィ」

「もう暗いしな、送ってく」


「…………え゙。」


しまったァァァァァ!!!
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