がたたたたんっ!

授業終了のチャイムと共にもの凄いいきおいで立ち上がった。すごく色んな人からの視線が痛かったが、それを気にしている余裕など今の私には微塵もない。


「おーい名前ーどしたー」


その日はたまたま6時間目が国語、つまり銀ちゃん先生だった。

先生がいつもと変わらず平淡な声で教卓から声をかけてくる。
私はこの声が好きだ。


「とっ…鶏肉が…!」


しかしそうも構ってられず、ごめんね先生!と心の中で叫んだ。以心伝心したのかしてないのかわからないが銀ちゃん先生はああ、と納得したように笑った。

ちなみにクラスメートは誰もが意味がわからないと頭上にクエスチョンマークだ。


鶏肉…そう今日は近所のスーパーの4時からタイムセール。


昨夜、一人ぱらぱらとチラシを見ていたら先生がいきなり、
「唐揚げが食べてェ」
とか言うもんだから、そんなのタイミングよくセールでもやってないとーとかぼやいているとまさかのタイムセール鶏肉半額赤字提供とか書いてあったもんで、今夜の夕飯は唐揚げに即決定したわけです。
てなわけで私は授業終了と同時に買い出し。

銀ちゃん先生と一緒に住み出してから、私は少しバイトを減らした。先生は、俺が養ってやるって言ってくれてるけど、そこは私の中のけじめ的にも譲れない所で、バイトの時間を減らすとゆう譲歩により銀ちゃん先生は渋々折れてくれた。



「唐揚げかあ…久しぶりに作るからなあ…」


上手く作れるだろうか、と考えながら私はスーパーまで走る。揚げ物は一人で食べるには悲しい物があるので、しばらく作っていなかった。


「どうしたアルかー?」


土手を息を切らしながら走っているとそれを悠々と越える速さで走っていく、クラスメートの神楽ちゃんがいた。
(ちなみに今初めての絡みで、ある)


「わわっ神楽…ちゃん?」

「わー!名前おぼえててくれたアルか!嬉しいアル!」


そう言って可愛らしく笑う神楽ちゃん。ピンクがかった髪の毛が揺れて、女の子らしいなーと思いながらなんだかこちらまで嬉しくなる。

そんな神楽ちゃんは走っている、と表記したが、訂正。神楽ちゃんの愛犬である定春に乗って走っている。


「ありがとアル!名前!」

「あ、神楽ちゃんこそ、名前…」


涙が出そうになった。
人が自分の名前を、覚えていてくれていること。
人から名前を呼ばれる事がこんなに嬉しいなんて。


「当たり前アル!ずっと名前と友達になりたいと思ってたアルよ」


いよいよ泣きそうだ。
こんないい子が友達になってくれるんだって。


「銀ちゃんがずっと話してたアルよー」

「え…?」

「あ、とりあえず乗るアル!」


そう言って笑いながら手を差し出す神楽ちゃん。その手をとると、女の子とは思えないほど軽々しく私を持ち上げて、器用に後ろに乗せてくれた。定春の背中は温かい。


「先生がってどうゆう…」

「銀ちゃん、昼休みとか他の休み時間とか、ずっと名前の話してるアルよー。名前はいい子だからーって」


うそ。
先生。


「だからずっと、名前とは友達になりたいと思ってたアル」


先生。先生。
ありがとう、せんせい

涙がこぼれた。前にいる神楽ちゃんには見えないように、そっと拭った。

ここ数日、私は泣いてばかりだ。
でもそれは悲しい涙じゃなくて、もっと温かい、涙。



「お客さん行き先はどこアルかー?」

「っ三丁目のスーパーまで!」


わたし、3Zでよかった。
先生。先生が担任で本当によかった。


今日はたくさん美味しい唐揚げを作ろう。先生の明日のお弁当にもたくさんいれてあげよう。


だいすき、先生。





胸がぎゅっと、詰まるように鼓動が早くなる。先生、先生に対するこの気持ちは、なに?










私は無事に鶏肉戦争に勝ち抜き(前に住んでた近所のおばさま方が私の苦労を知って喜んで譲ってくれた。)保存用と夕飯用に分けて、たくさん唐揚げを作った。
先生は本当に嬉しそうに、食べてくれた。
ああ幸せだなあ。
私が何かする事を、銀ちゃん先生が喜んでくれる。笑ってくれる。愛してくれる。
生徒としてだけど。



…私は

"生徒"として、先生から見られる事に、不満が、あるのか


そうか







「名前?」


ああ先生。
私は。貴方に、

持ってはいけない感情を持ってしまったらしいです。



恋 愛 対 象



(先生、私は貴方に恋をしたみたい)
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