私は基本、一番最初に教室に入り、一番最初に教室を出る。
これが毎日のサイクル。


まあ…お気づきの方もいると思いますが、私には友達と呼べる友達が、いない。


これでも両親が死ぬまではなんだかんだ友達はいたのだ。


しかし安い賃貸に住むため、引越し転校を繰り返す内に、なんだか今まで必死に積み上げてきたものが、馬鹿馬鹿しい事のように思えてしまって。


生きていく為に必要なのは、友情とか恋とか、そんなものじゃなくて。


確かな財力と、仕事と、睡眠時間だ。




そんなわけで、週7日(労働基準法とか何それ)学校終わりに 4時〜9時。残業有り。そんな毎日を過ごす私は疲労から休み時間を含め授業等、学校にいる時間は全て寝ている。

ちなみにお昼は青空学級。
屋上で食べてるとたまに鉢合わせする同じクラスの沖田くんに話しかけられる。


そんな毎日だ。
変わることもせず、ただそこに有り続ける私の、私なりの青春。







「おーい、名前ー」


そんな私が最近、気をつけていること。国語の授業は寝ないように心がけている。



「う…先生…?」

「…約・束」


ぼそりと呟く先生のその言葉で、私は一気に眠りの淵から覚醒する。

がたたん!と凄い音をたてて私は姿勢を正した。
クラスの人たちが一斉にこちらを見る。うわ、恥ずかしい。


その様子を見てますます先生はにやにやと笑って、授業を再開する。ばれたらどうすんだ。

沖田君が私と先生をちらりと見て、また机に突っ伏した。沖田君もいっつも寝てるよなあ…


先生は思いのほかこの状況を楽しんでるらしい。




今朝の事。

一緒に朝ごはんを食べながら、私は先生に、「銀ちゃん先生の授業はまじめにうけます」宣言をしてしまった。してしまった…。

「守らなかったら?」

「なんでもいいからなんかいっこ絶対に言うこと聞くとか?」

「それでいーな」


なんでもねえ…と言って銀ちゃん先生はにやりと笑った。なんか、しまったと思った。


それで今に至る。



チャイムが授業の終了と昼休みの開始を告げた。

きりーつ れーい

新八君の通る声が響く。
いつも滑舌いいよなあ。


私は立ち上がって廊下に出る。すると教室から「銀ちゃん今日手作りアルかー?」とゆう声が聴こえてきて、「おー」と答える声が心なしか嬉しそうで、私は胸がぐいぐい締め付けられるのを感じた。顔がにやける。

俯きがちに階段を駈け上がって、屋上にでる。締め切った教室より、さわやかないい風が吹き抜けた。


「遅かったですねィ」

「あ、沖田くん」


上から声が降ってきて、見上げるとはしごの上に沖田くんがいた。あそこは彼の特等席だ。


「春はいいね、風があったかい」

「そうですねェ」

「えへへ」


弁当箱を開けると、朝方私が作った、教室で食べているであろう先生と同じおかずが華やかにならんでいる。よかった。片寄ってない。



「坂田と何かありやしたか」


ぶっ、と今口にいれたばかりの春巻きを吹き出しそうになって、噎せた。大丈夫ですかィ?と沖田くんが私の顔を覗き込む。


「な…にもないけど」


吃りそうになるのは多分咳で誤魔化せた…はず。

沖田くん勘鋭そうだもんな。


「そーですかィ。ならいいんですが」

「ははは…」


私の隣に寝転んで、アイマスクを装着し、沖田くんは寝てしまった。いいなあ暖かそう。


弁当を食べ終わったら私もご一緒しようかな、などと考えながらピーマンの処理に取りかかった。


「名前」

「あ、ハイ」

「いい名前ですねィ」


どきり、と胸が鳴った。
気を使ってくれてるのか、気まぐれなのかは分からないけど、その言葉は嬉しかった。


「ありがと」

「俺の事も総悟でいいですぜ」

「え、」

「基本名字は呼び慣れないモンでね」

「わかったー」



友達と呼べるかは定かではないが、私は唯一話せる同級生が出来ました。
名前は沖田総悟。
こうやってZの人たちとも、徐々に話せるようになるといいな。


「…総悟かー」

「なんでィ」

「いやなんか嬉しくなっちゃって」


私も横に寝転んで、春の匂いに包まれながら、眠りについた。



春 風 と 変 化




(また人を愛せるようになりたいと思えたのはきっと)(先生のおかげ)
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