「………名前?」
「!!!!!!」
そこはとある大通りの路地裏。
勤め出してもう半年程たつけれど、まだまだ後輩の私はいつものように細い道を通ってゴミ捨て場まで大量の生ごみを捨てに行った。
大きな袋を2つ程宙に放り投げ、どさどさと大きな音をたてて落ちるのを見届けた瞬間。
事件は起きた。
「…ぎ、銀ちゃんせんせい?」
目の前にはラフな恰好をしてコンビニの袋をさげる(そんな姿もかっこいい)3年Z組、すなわち私のクラスの担任の先生。
坂田銀八が立っていた。
「お前…その恰好」
「あ、」
しまったァァァァ!!
私服もかっこいいとか見惚れてる場合じゃなかったんだった!!!
私は今、メイド服を着ている。
「違うの!!これはっ…!」
「そーか…名前にはそんな趣味が…」
「感慨深そうに納得すんなァァァァ!!」
「平気平気そんな名前が銀ちゃん先生は好きだから」
「人の話をきけェェェ!!」
「だからっ…」
説明しようとして、言えない事に気付く。
うちの学校はバイト禁止で、しかもわたしは高3で、受験戦争真っ只中な今、どこの誰が担任の先生に、
メ イ ド 喫 茶
で、バイトしてるなんて言えるだろうか。
絶対に見つかるまいと、思ってたのに。
「オイオイオイ、名前ー泣くな泣くなー銀ちゃん先生すげェ困る」
「う……だって…っく…」
「ほらほら大丈夫だから、何も言わないから、」
先生に話してみなさい、
そう言って優しく笑う先生。
きっと先生は私がその言葉にどれだけ救われたか、
知らないでしょう。
「せんせぇっ…」
泣きじゃくる私を優しく、優しく抱きしめてくれた。ぽんぽん頭を叩いてくれるリズムが、心地よかった。
そして私は少しずつ、少しずつ、話し始め、先生はそれを最後まで何も言わず、聞いてくれた。
「高2の途中で…両親が交通事故で、死んじゃって
血縁者も少なくて、引き取り先もみつかんなくて
今は、遺産と、援助で、アパートに一人で住んでて
働かないとやってけなくて
それでメイド喫茶の時給がすごくよくて
でも料理は昔から好きで、高1で資格とってたから、今は厨房で働いてて…っ」
そこまで一気に捲し立てると、息が持たなくてけほけほと少しだけ噎せた。そんな私の背中をさすってくれた。「名前はよく一人で頑張ったな、えらい」って、優しく、微笑んでくれて、頭撫でてくれて、それで私はまた泣きそうになった。
「お願い先生…!学校には言わないで!私は、みんなと一緒に卒業したい…!」
なにより、
「先生の授業、まだうけてたいよ…!」
この気持ちが何なのか、それはわからないけれど。確かに私はその時、まだ先生と一緒にいたいと、
そう思ったのだ。
「名前の事情はわかった」
「っありがとう先生!」
ぱっと顔をあげると、笑顔の先生の顔がみえた。
なんて幸せなんだろう。
「名前、よーく聞きなさい。一回しか言わないから」
そう言うと先生は、へ?と間抜けな声をあげる私の額に、こつんと自分の額をつけて
え、 なに、 この至近距離
自分の顔が、耳まで赤くなるのが分かる。わわわ、どうしよう
「今日から名前の帰る家は俺ん家だ」
「えええええええええええええええええええ!?」
先 生 と 私 。
こうして私と先生の奇妙な同棲生活が始まったのでした