それからてんやわんやで大騒ぎ。私と先生はもう質問攻め。男子はなんか絶叫とか頭かかえたりとかしてた(何でだろ)。それでも先生は私の家庭の事情とかわかんないように上手くはぐらかしてくれた。
「なんで言ってくれなかったアルかー!」
「ごめんね?神楽ちゃん、」
「銀八なんかに名前はもったいないヨ。考えなおすなら今のうち!名前、目を覚ますヨロシ」
「ちょ、先生傷付くんですけど」
「じゃあ先生が生徒と付き合ってるってゆーのは本当だったわけ」
一つ間をあけて、先生は短く「そ」と頷いた。皆は一斉にわたしの方に向き直って、申し訳なさそうに目を伏せる。
「ごめん!」
「え、」
「無責任に教室で騒いだりとかして、」
「ほんとはずっと、我慢してたんでしょ?」
きょとんとしたままだった私は事を理解するにつれてまた滲みだす視界を堪えるのに必死だった。
なんだかすごく、今まで胸につっかえてた塊が、溶けて消えていく感覚に陥る。途方もない安心感に駆られて、私の目からはやっぱり自然とぽろりぽろりと涙が落ちていく。
「名前」
先生に名前を呼ばれて、優しい笑顔に、私は本当に安堵する。私は今とんでもなく、幸せだ。世界で一番の、幸せ者だ。
先生がゆっくりと頭を撫でてくれて、ようやく私は涙を拭った。両手で顔を覆っても、零れる涙は止まる事を知らず、指の間からもぱたぱたと零れた。
「みんな、ありがとう」
「何いってんの!」
ばしっと背中を叩かれて見上げると、妙ちゃんや神楽ちゃんが笑っていた。
「分け合ってなんぼでしょう」
「幸せも、悲しみも、」
だって、
「私達友達でしょ!」
いよいよ私の涙は止まらなくて、私は2人にダイブして、思いっきり抱き締めた。
「うううぅぅぅ」
「名前はすぐ泣くネ」
「そこが可愛いんだけど」
「ふたりともっ…だいすき……!」
遠目から眺める疎外感満載の銀八を見上げて、にやにやと笑う。
「いいとこ全部もってかれやしたねィ」
「…たまにはいーんじゃねーの?」
「でもこれで害虫避けが出来たんじゃねーですか」
「…ふん」
「男の嫉妬は見苦しいですぜィ」
「ほっとけ!!」
ちらりと名前の方を見て、ふっと気が抜ける。いつの間にかあいつもあんな風に笑えるようになって、だんだんと人を愛せるようになって。こうやってどんどん大人になっていくんだろう。
自分の中に渦巻くこの薄汚い独占欲とかにはとっくのとうに気付いていたけれど。
願わくばあの子の成長をずっとずっと、傍で見守っていたいと、思う。
「…アンタも変わりやした」
「?」
「アンタは気付いてないだろーが、アンタ、前より優しく笑うようになった」
「そーかね、」
「名前も変わった。アンタも変わった。そうやってお互い良いように影響しあってんじゃねェのかィ」
そもそもそんなことを沖田に言われる事事態が驚きなのだけれど。俺はにやっと笑った。
「愛の力ってーのは偉大なんだよ」
「けっ。ちげえねーや」
す こ し ず つ
(俺もあいつも変わる)
この関係は俺にとっても、すごく居心地のよいものだったのだ