「名前ー何してるアルかー?早く夕飯いくネ!」

「ああごめん!これ書いたらすぐいくから、先いってて!」


そう言うと神楽ちゃんは困ったように笑って、すぐ来るアルよ!と言って広間の方へかけていった。

残った私はこの広い部屋に1人。
手元にあるノートに目を落として、ふっと微笑む。

両親が死んでからも、これだけは欠かさず毎日書いてきた、日記。
前の方を読み返すとやっぱりうだうだと陰湿な内容が多くて、だけど最近はだんだん徐々に、明るい内容ばっかりになってきて。

全部全部、先生のおかげ。


「おーい名前ー?」


ガラリと襖が開いて、先生の顔が覗く。わたしは慌ててノートを隠した。


「また日記書いてんの?」

「えへー」

「ご飯、みんな待ってんぞ」

「え、…待っててくれてるの?」


驚いて目をぱちくりさせると、先生が「みんな揃ってからじゃないとって神楽がうるさくてな」と笑った。


「神楽ちゃ……」

「あーあー、…もー名前はすぐ泣くんだもんなァ」

「ごめ、」


言い終わる前に、ぽすっと私は先生に抱きしめられて腕の中。嬉しくて、涙が零れる。


「いいよ、俺の前でくらい、素直に泣け」

「うん」

「あ、そうそう」


左手だして、そう言われてわたしはきょとんとしながら自分の左手をさしだす。


「う…わ、」


はめられた物は乳白色の石のついた指輪。薬指。そこに先生はリップ音をたてて軽くキスをする。
自分の顔が赤くなるのを感じて、慌てて片手で顔を覆う。


「お守りな、安モンで悪ィけど」

「全然…っ!いまわたし幸せすぎて死ねるもん」

「ちゃんとしたやつ、買ってやっから」


先生が指の間から私の顔を覗き込む。私はまたじわりと滲む視界越しに、先生を見た。
先生は笑って、覆ってた手をとってぎゅっと握る。


「卒業したら、結婚しよ」


先生が照れたように頭を掻きながら笑うから。わたしも笑おうと思ったけれどうまく笑えなくて、かわりに大粒の涙が次から次へとぼろぼろ零れた。


「せん、せ…」

「うん」

「だいすきぃ…っうう…」

「俺もー」


わたしはがばっと先生にダイブして、嗚咽をあげながら泣いた。ありがとう先生。こんなに私を幸せにしてくれて。

ありがとう、



「なァァァァにをやってるアルかこの淫行教師ィィィィ!!!!」


ばっこォォォォんともの凄い音と共に先生が後ろから吹っ飛ばされる。一瞬なにが起こったのかわからなくて、3秒くらいしてやっと脳味噌が事態を理解した時にはもう先生は神楽ちゃんから攻撃を受けきっていた。


「教師の分際で名前泣かせて公然猥褻とはいい度胸じゃねェかこの天パ野郎ォォォォ!!」

「ちょ、おま、天パ関係なくね…っ」

「うるせェェェ黙れハゲ!!」

「ハゲてねェェェ!!」

「ちょっと待った神楽ちゃァァァァん!!」


もの凄い音のせいでわらわらと集まってきた3Zのみんなが、泣いてる私と攻撃中の神楽ちゃんと攻撃を食らっている先生を順に見比べて、瞬時に理解(誤解)した人たちで先生のリンチが始まった。

いやありがたい事なんですけどね。
すごく嬉しいんですけどね。


「ちょっと待って!!」


先生とみんなに無理矢理入り込むとみんなの動きがぴたりと止まる。ちらりと便乗していた総悟くんの顔をみるとにやりとサドっ気たっぷりの笑顔をこちらに向けた。絶対あれわかっててやってたな。


「違うの、これは、」

「銀八にやられたんじゃないアルか?」

「うん」

「じゃあなんで…」


う、と言葉に詰まる。理由なんて、言えるわけもなかった。先生と結婚の約束してましたーなんて、




「実は付き合ってんだわ」




みんなの顔が、ぽかんと、目が点になる。私は大きな溜め息をついて、両手で顔を覆った。

みるみるみんなの顔が驚愕に変わっていく。そして一斉に、叫んだ。





「「ええええええええええええ!!??」」














優 し い 人 た ち



(言っちゃったよ…せんせ…)
(んーまァ大丈夫だろ)


笑ってる場合じゃない!
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