ジリジリと外で蝉が鳴いている。
外を見ると目の眩むような青が空を駆け抜けて、眩しい。
気付けばもう夏になっていた。


「もう夏休みだねえ」

「そうヨー世間はもう夏休みに向けて準備を開始してるネ。名前は予定は何か決まってるアルか?」


青空の下で私達は汗を垂らしながらご飯を食べていた。じとりと纏わりつく熱気は結局、教室でも変わらない。最近は神楽ちゃんも妙ちゃんも、一緒にお昼を食べるようになっていた。


「うーん…?今のところ特になしかなあ」

「私もヨー」

「三人とも特に部活動とか入ってないものねえ」


そういえば、野球部や剣道部などの運動部なんかは毎年夏になると合宿などがあるし、そうでなくとも活動は夏休み中もある部活のほうが多い。

銀ちゃん先生、とくに何も顧問やってなかった気がするけど…


「じゃあ夏休みはいっぱい遊ぶアルよ!」

「そうだねー!」


神楽ちゃんと妙ちゃんと一緒に夏休みの予定について笑い転げながら喋っていると、あっとゆうまに昼休みは終わってしまう。

…あと何回、こうしてみんなと笑ったり話したりできるんだろう。


「もっと早く…出会いたかったな…」


ぽつりと呟いた言葉は生温い風と共に空へ消えた。神楽ちゃんに呼ばれて、私も足早に教室へ戻った。








「夏合宿!」


夕飯の支度をしている私に、ソファから銀ちゃん先生が楽しそうに笑った。


「3Zの奴ら集めて」

「うんっやりたい!」


思わず心が高揚するのがわかる。先生と、みんなと、夏合宿かあ。
えへへ、と笑うと、先生が優しく笑いながらキッチンの方へ歩み寄る。


「本当は3Zの奴らの成績悪すぎて校長から勉強合宿しろって言われてんだけどよ、そんなんつまんねェだろ?」


だから、と続けてにやりと笑う先生。


「思いっきり遊ぼーぜ。高校生活ラストの思い出作り」

「あははっ銀ちゃん先生らしい」


みんな大賛成だよきっと、そう言うと微笑んでいつものようにわしゃわしゃ頭を撫でてくれた。先生は私に触れる時、本当に優しい手つきで触る。それがたまらなく私には嬉しい。


「今日の夕飯は?」

「もー見てわかるでしょー」


ぐつぐつと前で煮たつ鍋を指差すと銀ちゃん先生は笑って、


「いやなんか新婚さんみたいな事してみたくて。な?」


とか言うもんだから、私はもー恥ずかしくて恥ずかしくて、せんせーのばか!と真っ赤になった顔で見上げると、先生は笑いながら私のおでこに軽くちゅっとキスをした。


「名前、可愛すぎ」

「っ……!!」

「本当銀ちゃん食べちゃいたい位、だけど、」


まずはカレーが先〜と言ってにっこり笑って、キッチンから退室。私はその場にずるずるとへたりこんで、両手で火照る顔を覆った。


「せんせーのばか…」


本当に、もう本当に。
自分は先生の事が好きすぎると思う。いや本っ当に。
先生も先生で確信犯だからたちが悪い。私はいつも先生におどらされてばかり。

それでも。それでもいいと思っちゃうあたりが私も末期だと思うんです。


多めに作ったカレーをよそりながら、私は小さくため息をついた。


「できたよせんせー」

「おーうまそー」


受け取ろうとする先生からひょいっと皿を避けて、そのまえに、と私は促す。


「せんせ、眼鏡とって」

「?」

「かがんで」

「!!」


私の目線まで来た先生の唇に、わたしの唇を重ねる。私からするのは初めてのキスで、先生は目を丸くしてた。

さっきのおかえしーと言って舌を出すと、不意に今度は先生が私にキスをする。ちゅうっと、わざとらしい音付きで。


「じゃあお返しのお返しー」


にやりと笑う先生に、私の顔はまた紅潮する。


「……もー」

「冷める前に食うぞー」

「はいはーい」


先生には敵わないなーと漏らすと、先生も、名前には敵わねェよと言って笑った。















夏 休 み 前 日 の 話






(カレーまじうめえ超うめえ)
(それはよかった)


((やっぱり敵わない))


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