一定の間隔でゴウン、ゴウンと地響きのように震えるその音がやけに耳に障って、私は携帯用のタブレットの電源を落とした。

「……イルミ…ゾルディック」

"じゃあね、名前"

どうしてあの時彼は私の名前を知っていたのだろう。
ただ単にヒソカから聞いただけかもしれない。ただ、あの人達が他人に興味を示すとは到底思えなかった。
最悪の場合私が殺し屋家業だということも知れているのかもしれない。名前を知られている、ということは、いわばそういう事だ。

…………名前、なんて。

そんなもので何が分かるのだと。そうは言っても、自ら捨てる事は出来ないのだ。この忌々しい名前も。

目下に広がる海を見た。
青く青く深く、広がるこの広大な海を。その地平線の向こうにも土地があり、国があり、人がある。そう思うと不思議だった。自分の小ささを身に滲みて感じた。

そして何故か、そこにアイツをみた。
元気にしているだろうか。この試験が終わったら一度連絡してみよう。
いつだってほんの蜘蛛の糸ぐらいの、風が吹けば眩んでしまうようなそんな危うい関係だったはずなのに、気付けば一緒にいた。隣に、いた。


やめよう。
くだらない感傷だ。取るに足らない情緒など。イルミの事があって色々な意識が混濁しているだけだ。嵐だ、彼は。
一つ、溜め息を吐いた。







「面談ですか」
「まあ参考程度に、ちょいと質問する程度のことじゃよ」

広くも狭くもない和室に、ハンター協会の会長であるネテロと向かいあう。父とはまた違う威厳を持つ人だと思った。

「なぜハンターになりたいのかな?」
「資格の為ですね。情報業なもので、アマチュアの限界を感じて」
「ふむ、ではおぬし以外の9人の中で一番注目しているのは?」

誰よりも先にその問いに浮かんだ姿は、ギタラクルではなくイルミだった。

「……301番、ですね」

ほう、と意味ありげに笑ったネテロに「若いとはいいもんじゃ」と言われ、目をぱちくりさせた。見当違いもいいところである。

「…別に会長が考えているような事は一切ないですからね」
「わしは何も考えてなどおらんぞ?」

このクソジジイ。じとりとした視線を送れば、惚けたように笑った。

「では最後に、一番戦いたくないのは?」
「それは…、力量的には301番と44番、友好的な関係で99番と405番の子とは戦いたくない…かな」

聞かれたことといえば、そのくらいの事だった。後でコッソリキルアに聞いてみたところキルア達も同じような質問だったと言う。

405番の子の傍らで無邪気に笑うキルアを見ていると、自然と笑みがこぼれた。そうしていれば本当に普通の子供みたいだ。
きっとこの会場に彼…イルミがいる以上、ここから先穏便に事が進むとは思えなかった。胸が異様にざわついて仕方がないのだ。一人になった所を見計らって405番の子に近付く。

「ゴンくん、だよね」
「名前さん!キルアから聞いてるよ!キルアなら…」
「ううん違うの!ちょっとゴンくんに話があって」

聡い子だ。あっちに、と言って人気の少ない窓際を指した。そして「ゴンでいいよ」と言うので、私も「名前でいいよ」と笑った。



「詳しい事はあまり、言えないんだけど、」

セルフで設置された自動販売機から、ココアとコーヒーを一つずつ買って、ココアの方をゴンに手渡す。「ありがとう!」と曇りもなく笑う彼にキルアは惹かれたんだなあと、まるで親のような優しい気持ちになった。
だからこそ、これは言っておかなければいけない事だった。

「多分第5次試験で、最悪の場合キルアは…ううん、5次試験でなくてもいずれゴンの元から不可抗力で離れなくちゃならなくなる時がくると思う」

家出ならきっとほぼ絶対に連れ戻されるのは確実だ。そのためにイルミがいるのかもしれない。

「その時は何があっても、キルアと一緒にいてあげてほしいの。欲を言えば、ずっと一緒にいてあげてほしい」

彼が、笑っていられるように。
ゴンが力強く頷いた。

「約束するよ。だって、初めての友達なんだ。俺の友達だもん!」

ありがとう。そう言えば、ゴンは照れ臭そうに笑った。


キルアは私と似ている。
だからこそ私のような人生は送って欲しくない。自由に、幸せに生きて欲しかった。

たとえこの心に一点の、寂しさを感じたとしても。












ハンター試験には合格した。案の定、というべきか、予想しうる最悪の状況でキルアは失格となった。けれど別れ際にゴンが笑って「大丈夫だよ」と言うので、きっとキルアは大丈夫だ。ゴンがいれば、きっと。

私はまず新しい家を探さなければならなかった。第4次試験のような野宿はもうさすがにしたくなかったし、どちらかといえば情報業は外の仕事ではないのだ。拠点を持つことはそれなりに危険を伴うが、それなりの実力は持っていると自負しているのであまり心配はしなくていいだろう。

「都会には近い方がいいし…やっぱりヨークシン辺りかな」

パドキアにはもう戻らないと決めた。足のつくような事は絶対にしない。
そこにあったのは、一つの覚悟を決めた瞳だった。






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