「あっ…たま…痛い」
目覚めた時にはもう深夜で、室内は暗闇と静寂に包まれていた。ああ、ええと、どうしたんだっけ。がんがんと内側から畳み掛けるように鈍い痛みが木霊する。ふらふらする足取りで状況把握に努めようと立ち上がるとぐにゃりと何かを踏んづけて、縺れた足はそのまま私の体を支える事なく前方に向けで上半身を放り投げた。ずべしゃっとそのまま顔と床が衝突して、外傷的な痛みに寝惚けてた頭も覚醒する。
そこは見慣れた万事屋さんだった。
とゆうことは、恐る恐る振り返ると、踏んづけてしまった物体はやはり彼、坂田銀時だった。
「んぐう……」
目を覚ました彼はうっすらと目蓋を開いて、少し間を開けた後、ぐう、と呻き声と共にぐしゃりと頭を抱えた。
「痛っつ……」
「…おはよ、銀ちゃん」
「……名前ー?」
どうにもならない痛みは容赦なく響いてくる。ああ水。水飲みたい。気持ちわるい。ずるずると引きずるように台所まで体を運ぶ。それすら億劫で、これじゃあ本当に駄目人間だ、とやや自嘲気味に笑った。蛇口を捻ればざーと水が流れ出て、もういっそ頭から被ってしまいたい衝動に駆られる。
おもむろにコップを突っ込むとひやりとわたしの手を濡らした。
「俺にもちょーだい」
「はいはーい」
気だるい会話を交わした後にわたしはびしょびしょになったグラスを彼に差し出す。床にぽたぽたと水滴が染みを作った。二人していっきに飲み干せば、幾分か気分はましになる。
へらりと力なく笑った。
「飲みすぎちゃったねえ」
「だなー」
「頭痛いね」
「予想外にお前ががばがば飲むんだもん」
「えへ、ちょっと調子乗った」
私はいつだってやりすぎてしまうんだなあ。
途中から幕府の、真選組の皆さんも加わってどんちゃん騒ぎの末に皆して酔っ払って泥酔して。
久しぶりの大人数で、とてもとても楽しくて。
思い返すだけで自然と笑みが溢れる。その様を見て彼も優しく笑って残りの水を飲み干した。
「…久しぶりだったんだあ」
呟くようにして私はことりと空になったグラスを置いた。相変わらず頭は痛いまま。
「何も考えずこんなに騒いだの、いつぶりだろうなあ」
銀ちゃんの顔を見れば、何も言わず静かにこちらをただただ見つめていてくれて、私はそれが心地よくて、微笑む。
するりするりと言葉が出てくるのは、酒のせいという事にしておこう。
「…私が元々いた所はね、皆が私に優しかった、けど、それは、違うから」
こうゆう風に大口開けて笑って、飲んで、騒いで。
そんな風に出来る人が欲しかった。ずっとずっと。
「だからね、銀ちゃ…」
言いかけて、その場ですうすうと寝息をたてて眠る彼に、ふっと肩の力が抜けた。
さっきより慎重な足取りでそろそろと寝室に戻る。タオルケットを一枚取り出してそっとかけてあげた。
ずるずると隣に座り込む。ああ幸せだなあ。今日くらい、甘えたって罰は当たらないよね。なんて酒のせいにして。
こてんと肩にもたれかかり、そのまま私も眠りについた。
おやすみなさい。