部屋の中は昼間だというのにも関わらず薄暗く、窓の外でざあざあと降り注ぐ雨の音と、時折ばたばたと窓にぶつかる水滴の音しか聴こえなかった。

ごぽりごぽり
最近買ったティファールの電気ポットが、ぼこぼこ気泡を吐き出す。

カチリと電源が切れた音。沸いた合図と共にわたしは気だるさを感じながらも立ち上がった。

「銀ちゃんは?お茶?」
「いちご牛乳」
「ストックが切れております」

えーとかうだうだぶーたれてる彼を放置して2つ分のマグカップを取り出す。グラスよりマグが好きだ。手に感じる重みが心地よい。


やっぱりコーヒーにしよう。

インスタントのパックと瓶詰めされた角砂糖を取り出して、淹れるといい豆の匂いがする。
その匂いに気付いた彼は「砂糖いっぱいねー」と手をひらひら振るから、そこで当たり前のように砂糖を取り出している自分に気付いて、溜め息をついた。

私は無糖派なのだ。

湯気の立ち上るマグを2つ持って、ソファまで持っていく。ことりとテーブルに置くと、寝っころがっていた彼がサンキュ、と言って体を起こした。

また静寂が包み込む。
雨の音。しばらくは止みそうもないなあ。

じわじわと手のひらを温めていく。この季節、まだ雨の日は寒くなる。

ぶるりと体を震わせて、さむ、と呟けば、1テンポ遅れて彼が立ち上がった。トイレにでも行くのかなーとさして気にも止めずまたコーヒーを啜る。

戻ってきた彼は毛布にくるまっていた。

ぼすんと元の位置に戻った彼をじっと見てると、彼は笑って、ばさりと片側の毛布を広げて、ちょいちょいと手招きするから、私も笑ってそちら側へ移動する。


二人ぶんの体温は、毛布で保温されて、相乗効果で温かい。

銀ちゃんの体温が私に転移する。


「温かいねえ」
「だな」


雨の音。時折聴こえる水滴の音。彼の心臓。ああこんなに近くに感じる。安堵。人が生きる音。鼓動。血の波打つ音が、聴こえる。

ちっぽけで儚くて、吹けば飛んでしまうような、けれど途方もなく愛しい命がある事を、人は簡単に忘れてしまうから。

感じていたい。ずっと。


「きっとさ」
「おう」
「じーさんばーさんになっても、こうしていたいね」
「そーだな」


こつんと彼の肩に寄り掛かれば、彼は包み込んでいた力を強めて、ぎゅうと私を抱き締めた。

「好きようー銀ちゃん」
「俺的には好きってゆうより愛してるなんだけど」
「あっそれずるい」





とてもとても愛しい、



requested by りーさん
2010.05.30.柳


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