今日は朝からわたし1人お留守番。
銀ちゃんと新ちゃんは久々のお仕事で外出。神楽ちゃんはお妙ちゃんの所に遊びに出かけている。
いつも通り掃除やら洗濯やらを終えてふう、と息をつくと予想以上にいつもより仕事が早く終わってしまった事に気付く。
そういえば、ここに1人って今までなかったかもしれないな。
身寄りのなかった私を拾ってくれた銀ちゃん。いつもわいわい賑やかな万事屋さんはもう私の一部で、1人になるのなんていつぶりだろう。
仕事もしてればいつも何やかんや邪魔が入ったりして、この倍はかかるってゆうのに。
4人もいると狭く感じる部屋も、今日はがらんとすごく広く感じて。
「ちょっと寂しいかも」
ぽろりと零れ落ちたそんな言葉も掬われることなく消えていく。これじゃあ前のわたしみたいだ。じわじわと寂しさが私の心をひんやり冷たく冷やしていく。
がちゃり、とがらり。
万事屋の扉が開いていつものやる気のない顔がひょっこり覗いた。
「ただいま」
ほ、と
わたしはその顔に、その姿に、その声に、その存在に、途方もなく安堵して。
わたしは日頃からどれだけこの人に救われているか思い知る。
万事屋のみんなで作ってきたこの空間は、私にとってもうなくてはならないものなのかもしれないな。
「銀ちゃーん」
ぎゅーとお腹のあたりに抱き着けば、なんだなんだとからから笑いながら脱ぎかけのブーツを器用に外して玄関口に揃える。
「新ちゃんは?」
「なんかニューシングル買ってから帰るとか言ってた」
「そっかー」
そのまま玄関口に座り込んで、ぱこぱこと頭を撫でられる。じわりじわり、私の心を溶かすように彼の体温はわたしに転移して。
わたしを触れる銀ちゃんの手はいつも、優しい。
「何ーそんなに寂しかった?」
「うんー」
名前を呼ばれて顔をあげれば彼の大きな手がわたしの前髪をさらりとかきあげて、おでこに小さくちゅーをする。
不意打ちに私の顔はみるみる赤くなる。のが、わかるくらい火照って火照って、あつい。
「う、ぇ、」
「かわいーの、」
わしわしと頭を撫でながら、優しく笑った。
「心配すんなよ。俺もお前も、新八も神楽も。みんなここに帰ってくる」
「うん」
「ここが俺達の家だろ」
がたがたっと音がして扉から西日が射し込む。ひょこひょこっと顔を出したのは新ちゃん神楽ちゃん。
「ただいまアルー!」
「ただいま帰りました」
私と銀ちゃんは顔を見合わせて笑いあった。銀ちゃんは「な?」とどこか自慢気で、ぎゅっと握られた手を握り返した。
「邪魔しちゃいましたかね」「そうアルなー」とか笑う二人を手招きすれば、ぱたぱたと走って二人とも転がりこんだ。
そうだ。ここに万事屋がある限り、銀ちゃんがいる限り、新ちゃん、神楽ちゃん、定春、みんなが、いる限り。わたしはこの言葉を紡ぎ続けよう。この言葉で待ち続けよう。この言葉で迎えよう。
「おかえり」
ありふれた大切なこと
requested by はるさん
2010.05.22.柳