迷う。
今年は何をあげようか。

とか思いながら、外回りに出るとやっぱり目につくのははたはたと風に揺れる大きな鯉のぼり。5月5日生まれなんて、可愛いよなあ。
くすりと笑みが溢れる。


「さがるー」
「呼んだ?」
「退は今年トシに何あげるの?」
「あんぱんかな」


ぶっと吹き出してしまって、笑いがおさまらなくてその場でひいひい言いながらお腹を抱えて笑った。


「退らしいや」
「名前は?告白?」
「ばっ…!?」
「…可哀想だから言っておくけど、昨日沖田隊長が触れ回ってたよ」


総悟あの野郎…!!ぎりりと歯軋りすると退が哀れみの目で溜め息をついた。


「いい機会なんじゃない?毎年毎年不憫でしょうがなかったんだよね」
「…わたしそんなに分かりやすい?」
「うん」


即答されるとそれはそれで悲しくなってくる。項垂れていると退が慌てて慰めてくれた。優しいなあ。



「死ねえ真選組!!」



直後だった。
振り返れば多分攘夷浪士。しまった、と思った時には遅く、かわしきれなかった刀が私の肩を掠める。ヂリ、と痛覚が悲鳴をあげた。

「……っう…!!」

ぱたぱたと滴り落ちる血液に、苦笑。不覚。利き腕をやられた。


「退!!屯所に戻って人呼んできて!!」
「名前はっ…!!」
「いいから早く!!!」
「っ……!!」


瞬時に姿を消す退に、さすが、なんて思ってる暇などなく(思ってたけど)繰り出される攻撃をかわしつづける。ギャラリーも見てないで助けろよ。ピンチだっつの。

何かわーわー喚いてる浪士に舌打ちをする。足元がふらりと揺れる。視界も揺れる。思った以上に出血が多い。あーこれやばいかもなあ。


「死ねえ!!」


振る下ろされる剣。ぎゅっと目を瞑った。こんなことなら一回くらいちゃんと直接渡せばよかったかな、なんて。今更遅いけど。

さよならトシ。

真選組で1人しかいない女隊士だったけれど、それでも着いていけるくらいにまで成長出来たのは毎日毎日練習に付き合ってくれたトシのおかげ。
負けて負けて、1人で泣いてた時も背中合わせてずっと傍にいてくれて。
今更だけどありがとう。
そんなあなたの不器用な優しさが大好きでした。



がきん 、



やってこない痛みと、不自然な音にゆっくり目を開ける。






「……トシ、」


登場の仕方かっこよすぎるでしょ。どこぞのヒーローよ。あんた。

スパンという音と共に、浪人が崩れ落ちる。刀をしまったトシは、私を見て、ふうと息をついた。


「名前、遅くなっちまった」
「トシ、」
「すまねえ」


ゆっくりとしゃがんで、ぽろりぽろりと落ちる私の涙を拭った。はー、と肩の力を抜いた彼にぎゅっと抱きしめられる。
ど う ゆ う 展開 で す か こ れ !!
涙が引っ込みそうになる。けれど結局止まってくれない。気が動転。ばくばくばくばく鼓動が速さを増していく。


「トシ?」
「…お前が死んだらどうしようかと…思った」


それは、つまり、




好きだ。



反響するその言葉に頭が整理出来て、初めて出てきた言葉は「…うそだあ」だった。

嘘じゃないって頭を叩かれた。幸せすぎて死ねると思った。瞬間だった。



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